本研究では、日本と韓国における高齢期の雇用政策と社会保障政策の全体像を把握するために、まずは、日韓の労働政策および社会保障政策の展開過程を整理した。例えば、近年、韓国政府は、全国民雇用保険制度を導入するなど、雇用脆弱階層に対するセーフティネットを強化するための対策を講じたが、65歳以後に採用された高年齢者は依然として雇用保険の適用対象から除外されていることに注目し、韓国の雇用保険制度および全国民雇用保険制度の現状と課題について検討を行った。その他にも、韓国の高年齢者雇用政策(定年制を含む)、所得保障政策、公的年金制度について検討を行った。一方、日本では、2020年3月に高齢者雇用安定法の一部を改正し、高年齢者就業確保措置を設けた。そこで、今回の改正に至るまでの日本における高年齢者雇用政策の流れを概観したうえ、改正法の主な内容を整理・解説し、同法改正の意義と今後の課題について検討を行った。 少子高齢化という共通の社会問題を抱えている日本と韓国では定年延長に伴う賃金の不利益変更問題が提起されている。日本では、再雇用制度の下で定年後も雇用を維持する場合に賃金水準をどのようにすべきかが非常に重要な問題(いわゆる賃金の不利益変更問題)となっており、近年の裁判例及び学説の動向を整理した。韓国の場合、最近,賃金ピーク制が高齢者雇用法等で禁止している合理的理由のない年齢差別に当たるか否かが争われた大法院判決や,労働者集団の同意を得て有効に変更された就業規則(賃金ピーク制)と労働契約との優劣関係が争われた大法院判決が次々と出ており,理論上にも実務上にも注目を集めている。そこで、最終年度には、これらの大法院判決を中心に関連裁判例の分析を行った。また、年齢に基づく日本型雇用システムの下での関連政策及び法律の展開過程を検討し、これらをめぐる裁判例及び学説の議論状況について検討・分析を行った。
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