研究課題/領域番号 |
19K13482
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松本 和洋 京都大学, 法学研究科, 特別研究員(PD) (00789167)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | コモン・ロー / ローマ法 / 歴史法学 / イングランド法学 / 19世紀 |
研究実績の概要 |
本年度は、19世紀における『ブラクトン』への注目について先行研究等の調査と分析を行った。 『ブラクトン』がコモン・ロー法学者に着目されるようになったのは、16世紀の印刷本公刊が大きな契機であるが、法制および法学史料としての注目を得るようになったのは、19世紀からと理解できる。特に注意を要するのは、同書のローマ法的要素への注目とこれのピックアップが、英国とドイツでほぼ同時期に登場したことである。すなわち、H・メインは同書がローマ法に大きく影響を受けたことを指摘しており、C・ギューターボックは同書のテクストに批判的検討を行なって、ローマ法の影響関係を示した。これらのいずれも、同書に関する重要な研究であるメイトランドも取り上げているところである。 ギューターボックの研究はアメリカで英語翻訳されて英国に伝えられたらしく、同研究を受けて法律雑誌に『ブラクトン』の新版への要望が取り上げられるなどの影響が伝えられる。このほか、メイトランドに強い影響を与えたものに、P・ヴィノグラドフによる『ブラクトンのノートブック』の発見があるが、ドイツ、アメリカ、ロシアと英国外の研究者が『ブラクトン』に関する新知見を英国にもたらしたという側面は重要であろう。この時期には、Rolls Seriesの一環として初めて『ブラクトン』の英語への翻訳が試みられた。その評価は同時代においても芳しくないものであったが、英国における歴史学の成立と法学教育の変化と合わせて、改めてこれらを注視する必要を確認できたと言える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
英米法文献については、webデータベース(特にHein-On-line)の充実によって多くの史料を閲覧・検討することができた。また19世紀の法学教育に関しては、国内外の先行研究も蓄積されており、これらの成果を利用して研究を円滑に進めることができたと考える。 19世紀における『ブラクトン』への関心が、歴史学の成立とローマ法の影響への着目との産物として理解することができる。ドイツにおける歴史法学派の登場と活躍がこれに影響していたことも、改めて注目する意義を与えるであろうと考える。特に、英国外の研究者の活動とその返答として『ブラクトン』の研究を眺めることで、同書が今日もなぜ史料としての地位を保持し得ているか、広く研究者の関心を引き続けているのかについて、これを改めて明らかにすることが期待できるような進捗が見られた。 一方で、これらを論文等で公表する機会を掴めずにおり、その点では課題を残しているため、次年度以降と合わせて速やかな成果の公表が求められる。
|
今後の研究の推進方策 |
『ブラクトン』が19世紀に改めての注目を受けた背景として、同書の近代イングランドにおけるある種の「復活」を紐解く必要がある。これは近代初期の印刷本出版に始まり、イングランド法の「古典」として、同書がどのような分野や法学者たちに影響を与えてきたかを分析することを求めるものである。 申請時の計画通り、近代における『ブラクトン』の出版と法学者らの言及に着目し、またこれをイングランドにおける法学教育の手法の変化にも目を配りながら、両者を総合的に理解することができるように留意していく。 すでに英国での印刷出版史および法学史については研究も蓄積されており、また『ブラクトン』に限っても、数は少ないながら優れた先行研究が存在する。さしあたりはこれらの成果を集約・分析することを通じて、『ブラクトン』の近代における「復活」の過程を整理し、これとイングランド法学の近代における変遷とを関連づけることができるよう並行して研究を進めていく予定である。 研究成果の発表機会の確保が課題であるが、2020年度より所属先を移動したこともあり、移動先の学内紀要などの媒体を利用することでこれを解決したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度後期に、当時並行していた学振特別研究員PDの在外研究が入ったことにより会計処理の手続に不備が生じることを懸念したためと、在外研究先で調査等を円滑に行うことができたために、当該年度中に新たな執行の必要がなかったため、そして2020年4月より大学教員としての採用が決まったことにより研究物品の拡張および整備の必要に備えたためである。 これにより発生した次年度使用額については、新しい所属先での研究環境を整えるための物品調達に当てて、逐次速やかな執行を行う。
|