研究課題/領域番号 |
19K13482
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研究機関 | 広島修道大学 |
研究代表者 |
松本 和洋 広島修道大学, 法学部, 助教 (00789167)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コモン・ロー / ローマ法 / イングランド法学 |
研究実績の概要 |
本年度は、近代の『ブラクトン』への注目を導出したローマ法との関連について研究を行なった。『ブラクトン』の構成はローマ法の『法学提要』を踏襲しつつ、その中には中世ローマ法や教会法で培われた知見も反映されている。こうした議論が『ブラクトン』の中に吸収され、かつイングランド法(コモン・ロー)と後世に認識される要素と合わせて、近代において『ブラクトン』を介しての一種の比較法的接続が想定できると言える。 『ブラクトン』における上記のような要素を含むものとして、今年度では物所有権の獲得について中世ローマ法が用いられていることとともに、その一環として扱われる内縁妻および内縁から生まれた子に対するコモン・ロー上の当事者適格を認める部分に着目した。前者は、『ブラクトン』の著述がローマ法主体の内容から、徐々にイングランドの国王裁判所の訴訟で用いられる令状の例示を含めた、イングランド法的論述へと変化していく過程が含まれている。こうした部分に着目することで、『ブラクトン』の論述がローマ法や教会法の発想および知見を背景ないし外枠としつつ、その内実を徐々にイングランド法へと変化させていく過程を、論述展開に沿って分析可能であることが想定できる。 後者では、前者の中世ローマ法および教会法も交えつつ、その論述から自然な展開として内縁者やその子どもたちの相続関連権利の保護として、イングランドの訴訟手続が示されていることが注目される。一方で、前後して内縁者と内縁関係の子どもについての『ブラクトン』の論述には、いわゆる『ローマ法大全』からの影響が指摘されていることと合わせて、相続権利と訴訟という視点からローマ法とイングランド法の交錯を示し、そうしたことが『ブラクトン』を近代以降に一種の権威として復活させる要因になったと想定できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスにより、予定していた海外学会での研究報告の吸収をはじめ、国内での研究進展にも支障が生じたことは避けられなかった。とりわけ研究活動の面では、研究者交流においてかなりの制約があり、年度末に口頭での研究成果報告を行えたものの、研究者間での議論や報告を十分に発揮できたと評価するのは難しい面もある。加えて本年度は研究機関の移籍および講義対応との並行が求められる環境となったため、満足のいく進展であったと評価することは難しい。 一方で、『ブラクトン』のテキストについては、校訂本を中心として既に電子データが進められていたこともあって、幸いにもテキストの比較検討という主要な作業について大きな問題が生じなかったことは幸いであった。また中世ローマ法関連テキストも入手できたために、研究の進展については計画的に進めることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は近代イングランドにおける『ブラクトン』の再登場を支えた、『ブラクトン』内の中世ローマ法的部分とイングランド法との交錯について取り上げた。『ブラクトン』が19世紀後半からローマ法とイングランド法の関連において取り上げられるようになるまでには、16世紀後半-17世紀半ばにおける印刷本の出版とエドワード・クックによる活用を経て、同書がイングランド法文献として(時にローマ法文献として)の地位を確立したことが背景にあったことが推定される。 このことをすでに示唆するものとして、ホウルト王座裁判官が『ブラクトン』を主たる典拠とし、そのローマ法的要素を利用して寄託の解釈を示した1703年のCoggs v. Bernardが知られている。こうした『ブラクトン』に含まれるローマ法的要素の認識は他の裁判官にも知られたものであり、1717年のThe Grand Opinion for Prerogative concerning the Royal Familyでは、『ブラクトン』は"old civil law book"として言及されている。 印刷本出版から19世紀末に至るまでの『ブラクトン』のイングランド法学における定着を見るには、今日English Reportsとして整備された判決報告集を丹念に調査することが求められる。幸いにも、これらはすでに電子データ化され、キーワード単位での検索も可能となっている。次年度は、先行研究の調査と合わせて、これらEnglish Reportsの調査とそれらにおける『ブラクトン』の利用方法の検討を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、予定していた国内学会および国際学会への出席が行えなかったことが大きい。また就職に伴う所属研究機関の変更(京都大学→広島修道大学)に伴い、本研究課題を申請した際に予定していた各年の研究環境調整への費用(消耗品費、その他)に余白が生じた点も影響している。 次年度はCOVID-19の感染状況及び所属研究機関の対応を踏まえながら、所属研究機関では調達できない資料調査のための出張、電子データで調達した資料の印刷等の費用として、次年度使用額を有効に活用していく。
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