研究課題/領域番号 |
19K13486
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研究機関 | 明海大学 |
研究代表者 |
中田 裕子 明海大学, 不動産学部, 講師 (40802369)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | モーゲージ / 担保権実行手続き / mortgage / foreclosure |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、住宅ローンに起因する金融危機を今後引き起こさないようにするための法規制の在り方について探求することを目的としている。2008年に起こったリーマン・ショックの際にアメリカで頻発した担保権実行手続き(foreclosure)については、①担保権実行手続きを行わせないための法規制、②金融商品に対する法規制強化といった両側面から規制している。本研究では、アメリカの居住用住宅の担保権(mortgage; 以下、モーゲージ)の担保権実行手続きに焦点を当てつつ、モーゲージの本契約とモーゲー ジ証券化の法的関係性を明らかにする。その上で、それぞれの規制方法の法的含意について 比較法的視点と歴史的視点に鑑みながら検討し、その規制方法の有効性について示すことを目的にしている。 今年度は、担保権実行手続きについてイギリス担保権実行手続きとの発展の差異に着目し、判例研究と二次資料収集を行った。イギリスでは、中世以降モーゲージが判例上発展する中で、一般的だったforeclosureの手続が、1925年財産法改正後、その重要性が失われていった。他方で、1925年財産法改正以前の中世由来のモーゲージをイギリスから継受したアメリカでは、州によって差異はあるものの、foreclosure手続きが現在においても主流であある。もともと土地との結びつきの強い本手続きは、地方銀行と債務者といった簡単な場面では問題がなかったものの、2000年代の証券化で複雑化した。そのため、foreclosure手続統一構想が根強くあるという点も明らかになった。証券化と複雑な契約との交錯問題について、リーマン・ショック以降も問題点が解消されていないにも拘らず、トランプ政権下で金融商品に対する法規制も緩和されている点が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していた計画が遅れている理由は大きく分けて2つあると考えられる。 第一に、2019年4月に明海大学不動産学部へ移籍した結果、本研究に関連する資料を収集及び利用できなくなってしまい、資料収集作業が予定通りに進まなかった。2019年秋以降になり、電子データ・ベースで取得可能な資料のみ収集を開始することができた。また、書籍等の紙媒体の資料収集は、他の研究機関や国会図書館に出向いて収集する必要があったため、研究計画から遅れてしまう結果となった。 他方で、法律学以外の資料(経済学・都市計画など)の収集や研究会などを通じて様々な知見を得る機会があったことは、本研究をより多角的に深化させることに繋がったと言える。アメリカだけでなく、日本の住宅法制について理解する機会があり、比較法的な観点から問題点を発見するきっかけとなった。 第二に新型コロナウイルス流行の影響である。当初、2020年2月-3月を利用し、他大学への資料収集ないし海外渡航での資料収集を予定していたが、新型コロナウイルス流行の影響で、外出自粛や海外渡航が制限されるなどしたため、予定していた資料収集ができなかった。さらに、2020年6月に本研究テーマに関する中間報告的位置づけとして、比較法学会学術大会(東京大学大会(英米法部会))での研究報告を予定していたところ、同じく新型コロナウイルスの流行により、比較法学会学術大会開催自体が中止となってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス流行の影響で、今年度に予定していた研究計画は変更せざるを得ず、海外渡航も制限させるものと考えられる。 第一に、foreclosureの実態調査のために、本年度のアメリカ渡航現地調査を予定していたが、資料収集は来年以降に行うよう調整することとする。代替措置として、海外から資料を取り寄せたり、アメリカの研究者に資料取得を依頼をしたりなどで補完予定である。また、2021年度に実態調査のための渡航できると想定し、具体的な調査地、許可申請等の調整を行いたい。 第二に、研究室への立ち入り禁止期間がどれほどになるか不透明である以上、家にいながら研究できるように環境を整え、自宅での研究へとシフトせざるを得ない。具体的には、プリンター等パソコン周辺機器の購入、さらに家からデータ・ベースにアクセスできるようにデータベースの購入を検討している。 第三に、当初予定していた本研究の報告について2020年度は学会中止という結果になってしまったため、2021年度以降の学会報告への応募を検討している。 他方で、コロナウイルス流行下において、リーマンショック時と同様、担保権実行危機が起こる可能性が高まっている。連邦政府もそれを阻止するための時限立法等の措置が講じるものと考えられており、本研究の目的としていた事態がまさに起ころうとしている。そこで、コロナ禍のアメリカ法という側面からも本研究課題を掘り下げたい。また、当初予定していたイギリスとの比較であるが、リーマンショック時に受けていた影響より大きな影響を受けているイギリスが、既に住宅ローン関連の対応を余儀なくされている。イギリスとの対応の差を比較法的に検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、当初2020年2月-3月の時期に、海外渡航・現地調査ないし他大学での文献取集作業を行うべく今年度予算を計画通りに執行していたが、新型コロナウイルス流行の影響で、渡航自粛要請や、他大学が外部者の立ち入りを制限する措置をとり、また、その後の自宅待機等の事情が生じたために、研究計画を変更・予算執行の変更の事情が生じた。 今年度は、研究室への立ち入りも制限されることが予想されることから、研究室からでも、自宅からでもどこからでも文献にアクセスできるようにデーターベースの購入を検討している。データ・ベースが高額であるため、次年度使用額と併用して執行する予定である。
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