研究課題/領域番号 |
19K13486
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中田 裕子 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 特任助教 (40802369)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フォークロージャー手続き / モーゲージ |
研究実績の概要 |
住宅ローンに起因する金融危機を今後引き起こさないようにするための法規制の在り方を探求することを研究目的としているが、本年度は上記危機を引き起こしたアメリカの住宅ローン(モーゲージ)とその規制、住宅ローン(モーゲージ)の発展の経緯、さらに時代が進んだサブプライムショック前後の法規制の変化と裁判所の態様について研究・調査を行った。 アメリカでは、連邦法ではなく州法によって規定されているため、州ごとにその形式や設定方法が異なるが、イギリス中世来の古い形式が現在でもアメリカには残っている。さらに、住宅ローン貸出銀行の役割を、19世紀イギリス由来の建築組合(Building Society)を継受した貯蓄貸付組合(S&L)が専門金融機関として住宅金融の中心的な役割を担いながら発展した。しかし、1929年の大恐慌をきっかけに、連邦政府が大きく介入することになる。イギリス由来のモーゲージとS&Lを利用した住宅金融方式、ニューディール期の連邦政府の公的介入が、アメリカの住宅金融を特徴づけるものとなっている。 また、リーマンショックが発生する以前から、公民権運動の影響を受けた消費者保護立法が、住宅ローン規制において重要な役割を果たしていたが、リーマンショック後、それらの立法の規制強化だけでなく、住宅ローンにかかわる業者の資格付与、終局的な手段となるフォークロージャーを回避させるべく、フォークロージャー手続きへ至るまでの手続にハードルを用意するなどの措置を講じている。裁判所もスタンディング法理を用いて安易なフォークロージャーを認めないという態度を維持している。実際、コロナウイルス流行を受けて、連邦政府は、フォークロージャーモラトリアムを発表する等、終局的手段を講じさせないような規制強化を行っている。 これらの研究成果については、第84回比較法学会で報告し、比較法研究第82号で発表済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナウイルス流布により、当初2020年度に報告予定であった研究報告及び中間的研究成果の報告が2021年度にずれこんだため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、イギリスの住宅ローン規制とフォークロージャー規制について比較したい。イギリスでは、フォークロージャー手続きを形式上維持しつつも実質的に廃してしまっている。今まで、アメリカではイギリスの中世来のモーゲージと金融システムを用いつつも、消費者保護の枠から住宅ローン規制を行ってきたという点を示した。同様のシステムで住宅ローン市場を発展させてきたのがイギリスであるが、アメリカとイギリスを比較した際、大きく異なるのがフォークロージャー手続きの位置づけである。アメリカは州による差異はあるものの、フォークロージャーは債権者の終局的な債権回収手段として維持されている。イギリスは、1925年財産法以降に中世来のモーゲージから脱却した後、フォークロージャー手続きは廃止されていないが利用もされていない。 実際、フォークロージャーによる弊害はある。リーマンショックでも示された通り、債務者の信用履歴に傷がつき、債務者のその後の借り入れに大きく影響することや、その後の住宅が空き家になりがちでコミュニティにとっても望ましくない。 フォークロージャー手続きを利用しないことで生じるであろう債権債務者間の法的関係の変化をフォークロージャー手続きを維持するアメリカと比較することで、フォークロージャー手続きの法的意義について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、海外での研究報告や研究のための研究資金として計上していた部分が、コロナウイルス流行により海外出張ができずに使用できなかったためである。他方で、今年度は、海外の学会が再開されつつあるため、アメリカおよびイギリスへの出張費として使用予定である。
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