研究課題/領域番号 |
19K13486
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
中田 裕子 南山大学, 法学部, 准教授 (40802369)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | モーゲージ / フォークロージャー / 住宅ローン / 担保権実行 / モラトリアム |
研究実績の概要 |
2023年度に行ったものは、主に以下の2点である。 第一に、アメリカにおけるフォークロージャーモラトリアムと空き家になる率についてのデータ分析を行った。そこでは、各州で行われているフォークロージャーの内容とその法的効果についても検討することになった。アメリカでは、イギリスで中世来1925年まで利用されていた古い形のモーゲージが利用されているのがその特徴である。タイトル型、リーエン型、その中間ともいえる信託証書型である。タイトル型では裁判所が関与しない形(Non-judicial)でフォークロージャーが行われており、リーエン型になると裁判所が強力に関与してくる形(Judicial)でフォークロージャーが行われる。その結果、リーエン型の方が厳しいフォークロージャー(strict foreclosure)が行われがちであり、その結果、空き家になりやすいと言われていた。しかしながら、フォークロージャーが多発した2009年、2010年のリーマンショック後の空き家率、さらにはフォクロージャーモラトリアムが終了してからフォークロージャーが多発している現在のアメリカとの空き家率について検討し直した。そこからは、フォークロージャー件数と空き家率増加には因果関係がないという点が明らかになった。すなわち、アメリカの空き家率増加には、フォークロージャーだけでない要因があるということが本研究の副産物として明らかになったと言える。 第二に、フォークロージャーモラトリアムがイギリスでも行われていたが、アメリカが行っていたフォークロージャーモラトリアムとイギリスが行っていたフォークロージャーモラトリアムがそもそも異なっているということが分かった。アメリカでは、リーマンショック後のフォークロージャークライシスを防ぐ目的から政府主導で行われているのに対し、イギリスでは民間主導で行われていたことも判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究が遅延してしまっている主な理由は、新型コロナウイルス流布により海外渡航を伴う研究の機会が確保できなかった点と、大学移籍を繰り返したことによる時間の確保が難しくなった点である。 新型コロナウイルス流行以降、Zoom等を利用したオンラインによる研究報告は行っており、そうした意味では遅れが生じないように思われていた。しかしながら、海外の学会へ赴いての報告を行ってこなかったことで、実質的な研究の遅れを来していたことが分かった。 オンラインでの報告は実際可能であるし、その意味や意義もある点は評価しているが、実際に現地で他の研究者との対面での会話や対話の中で生まれる研究の進歩があることもある。上記、進捗が遅れているとしたのは、時期的に遅れているだけでなく、当初予定していた研究の広がりという点でも遅れていると感じているためである。2023年度は、オーストラリア出張時に、オーストラリアだけでなく、イギリスやアメリカにおいても著名であるHousing分野の研究者であるCathy Sherry教授と接点を持ち、今後の研究協力についても話し合うきっかけを持った。それは、本研究にとって欠かせないHousingの視点をイギリス、アメリカの両制度に明るいSherry教授に助言をもらうことで、空き家との関連性などを理解するのに不可欠な要素であったと思われる。こうした機会が失われた約3年間はやはり本研究を実質的に遅らせるに至ったものと考えられる。 さらに、任期付きのポジションであったため、大学移籍を繰り返したことで、研究時間の確保が難しくなってしまったという側面が大きい。2019年~2022年までは全て任期付きの就職であったため、テニュアポジションが確保できておらず、中々落ち着いた環境での研究ができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究成果を踏まえて、今後の研究は以下の通り行う予定である。まずは、2023年度の大きな成果として、フォークロージャーモラトリアムの法的性質がそもそもアメリカとイギリスでは異なる可能性が高いという点である。恐らく前者は行政法規に近い形で行われており、後者は契約ベースである可能性が高いのではないかとの予想ができる。2024年度は、このモラトリアムの法的性質という点に焦点を当てて研究を行うこととする。 具体的には、アメリカにおいては恐らく行政主体が情報公開を行っているため、現地に赴かずに研究を進める予定である。また、イギリスにおいてはBuilding Societyが情報を持っている可能性が高いので、インタビューを実施しに渡英する予定である。 さらに、12月に開かれるシンポジウムに参加し、その成果を報告する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究機関の移籍があり、研究に遅れがでたことで次年度使用額が生じてしまった。また、8月に渡英して現地での研究、さらに12月にオーストラリアでの研究報告の機会があるため、その際の出張費として主に使用する予定である。
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