本年度は、前年度に引き続き、当初計画に従って、戦前期日本憲法学における皇室法解釈論をドイツ法学継受の観点から検討した。具体的には次の二点が本年度に進行した中心的な作業である。 第一に、いわゆるアカデミズム憲法学における議論に立ち入る準備作業として、明治皇室典範の成立に深く関わると同時に明治憲法成立直後期の憲法学説における皇室法論にも影響を及ぼしたヘルマン・レースラーの「王室家憲答議」を分析した。広く知られた史料であるが、これまでの成果であるドイツ法史の知見を補助線として、「家憲」・「自治」・「既得権」の観念を中心に再検討した。ここには当時のドイツにおける議論を反映して「既得権」観念に動揺が見られ、そのことがその後の学説状況に影響を及ぼした可能性が見えてきた。なお、これについては「ヘルマン・レースラーにおける家憲と自律――「ロエスレル氏王室家憲」註解――」と題する論文を執筆した。 第二に、これを前提として、ドイツの実定法及び公法学における「君侯法」論におけるHausgesetze及びAutonomieの観念及びこれらに関する争点を再度整理し、これを日本憲法学説における「家憲」・「家法」・「自主権」・「自主法」等の観念と比較検討する作業を進めた。また、同時代人によるドイツの制度的沿革及び学説に対する言説を分析し、ドイツを対照像としつつも、その学説を取捨選択して摂取した実相が朧げに見えてきたように思われる。これを以て、本研究課題は概ねの見通しを得たことになる。 第三に、本研究を前提として公法(学)史を「君主制」という一般的視座から再検討し、次の研究課題への発展可能性の示唆を得た。その成果として概説的書物に「君主制」の項目を寄稿した(未刊)。 本課題の研究成果は研究期間終了後、早い段階で取り纏めて公表する予定である。
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