本研究は、中世盛期から後期にかけての学識訴訟における紛争解決のあり方を総合的に解明することを目的とするものである。本年度は、前年度に引き続き、シュパイヤーの教会裁判所において訴訟法規範として利用されたと目される、Ordo iudiciarius antequamと呼ばれる訴訟法書(1260年頃)につき検討を進めた。特に、昨年度からの課題としていた、イタリアの訴訟法学(タンクレードゥスの訴訟法書)との比較を行った。記述量、構成、法源・学説の参照、概念の定義・説明、暗唱句、裁判慣行などに着目して比較した結果、シュパイヤーの訴訟法書には手引書としての性格がより一層強く表れていることを明らかにした。加えて、学識的なローマ・カノン法訴訟を各地域へと伝える媒介としての訴訟法書の機能が、学識法の知識伝播のプロセスにとって重要な役割を果たした可能性を提示した。以上の成果は、論文として公表されている(「手引書としての訴訟法書」松園潤一朗(編)『法の手引書/マニュアルの法文化』(国際書院、2022年)所収)。 また、Franz Xaver RemlingおよびAlfred Hilgardの編集によるシュパイヤーの証書集の検討を進め、証書に記録された紛争における当事者、紛争類型、解決方法などを整理すると同時に、紛争解決への訴訟法規範の影響などを分析した。その研究成果については、公表に向けて現在準備を進めている。
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