研究課題/領域番号 |
19K13489
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
中野 万葉子 西南学院大学, 法学部, 准教授 (10761447)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 後期スコラ学派 / 近世自然法論 / 私法理論 / 原状回復 / 合意 / 契約 |
研究実績の概要 |
後期スコラ学派の原状回復の解体プロセスを眺めることで、近世の合意を主体とする私法理論の構築契機を明らかにするという本研究の目的に照らし、債務の発生原因にかかる分類の出発点を確定すべく、後期スコラ学派から近世自然法論にかけての債務発生原因の変遷に焦点を当てて研究を進める必要性があることを研究計画書において示した。それは、後期スコラ学派が契約、不法行為、不当利得を原因として発生するあらゆる債務を原状回復(restitutio)概念を用いて説明するのに対して、後期スコラ学派と近世自然法論の仲介者と評されるレッシウスの法理論を経て、グロチウスやプーフェンドルフといった近世自然法論者になると債務の発生原因を合意とその他(不当利得・不法行為)に大別するようになるという点について、その変遷の要因についての考察が不足しているからである。こうした観点から、後期スコラ学派に属するソトおよびモリナの主要著作『正義と法について』において展開される原状回復論やその基礎にある所有権の位置付けおよび意味を把握するために、文献を収集するとともに、それらを分析・検討するなどの研究を進めてきた。ただ、その際に、原状回復中心の法理論から合意中心の法理論への転換に関する積極的な理由を明らかにするため、原状回復の解体プロセスと損害賠償の関係について検討を進める必要性が高まり、今年度は近世自然法論を中心に原状回復論および損害賠償義務について研究を進めてきた。具体的には、後期スコラ学派の原状回復論を継承しつつ、新たな枠組みで展開される原状回復論およびそのなかでの損害賠償義務の位置付けである。 しかし他方で、当初2020年度に予定していた研究テーマについては最終年度に繰り越すこととなった。COVID-19の影響により、当初予定したドイツ出張による関連資料の収集が実現できなかったことも研究実績に大きく影響を与えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の2年目にあたる2020年度の研究については、研究実績の概要にも記載したように、研究遂行のなかで新たな検討の必要性が生じたことに伴い、原状回復の解体プロセスと損害賠償との関係について研究を進めることになったため、十分な形で進められていない。また、COVID-19の世界的大流行の影響が依然として続いていることにより、当初予定していたドイツ出張による関連資料の収集が実現できなかったことも要因として挙げられる。次年度も引き続き、2020年度に予定されていた研究を進める必要があるため、当初の研究計画に照らして遅れていると評価せざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度にあたる2021年度については、前年度の研究課題を継続して進めるとともに、当初計画していた内容についても研究を進める予定である。具体的には、レッシウス以降、後期スコラ学派の原状回復論がいかに発展させられたかについて研究を進めていきたいと考えている。すなわち、一般的に後期スコラ学派の影響を受けていると評されるグロチウスの体系配列、所有権の意味および位置付けを確認するとともに合意の位置付けを考察する。グロチウスの体系配列をみてみると、原状回復に関する独立した章が存在しない。彼は、絶対的所有権概念を基礎とする権利中心の法体系のなかで、債権の発生原因と不均衡(不当利得および不法行為)を挙げる(グロチウス『オランダ法入門』)。不当利得は所有権に基づく返還義務を基礎とし、不法行為は権利侵害を成立要件とするというように、保護されるべき権利が観念され、それが侵害された場合の返還義務や賠償義務が説明される。この点に関して、後期スコラ学派の原状回復論を継承する一方で、権利の概念を用いて法体系を再構成していることが指摘されている。また、所有権概念を「所有権とは、占有を失った者が占有者に返還を請求できる財産権である」(グロチウス『オランダ法入門』)と定義している点に関しては、後期スコラ学派との連続性がみられるが、交換的正義から脱皮する傾向もうかがえることから、グロチウスの体系の基礎にある権利中心の思考枠組みも明らかにする必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
若手研究の独立基盤形成支援が加わったことにより、研究費が当初よりも大幅に上積みされたものの、昨年度に引き続きCOVID-19の世界的大流行が依然として収まらないことによりドイツ出張が実施できなかったこと、あわせて国内出張や学会・研究会への情報収集も同様に見合わせが続いたことにより旅費が予算を大幅に下回ったためである。2021年度においては当該年度の研究計画に沿った使用に加えて、2020年度に実施できなかったドイツ出張を実現すること、研究成果の報告や情報収集のための国内出張を実施したいと考えている。
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