本研究は、一つ目に、教育における国家の中立性の原理が政治哲学的に基礎付けられうるものなのか、基礎付けられうるとしたら、いかなる内容のものであると理解すべきなのか、二つ目に、中立性の原理の規範内容を十全に保障するためには、日本国憲法の解釈を通じてどのような憲法法理として具体化されるべきな のかを明らかにすることを目的にしたものである。 研究期間を1年延長した最終年度に当たる2023年度には、一つ目と二つ目の双方の柱について、補充的な調査と文献・資料の分析を進め、特に、二つ目の点について、日米において教育に関する政府の権限を限界づける異なる憲法法理が形成されるに至った経緯や背景を探る上で確認を要する資料の収集と分析を行うため、アメリカ合衆国連邦議会図書館での調査を実施し、これまでの分析を補充する作業を行った。 本研究では、研究期間の全体を通じて、一つ目の点については、日本の憲法学・教育法学で、教育における国家の中立性として言われてきた原理は、英米の政治哲学の分野でリベラルな国家の中立性と言われてきた原理とおおよそ同様のものと解することが可能であり、その立場からならば政治哲学的に一貫した正当化とその内容の明確化が可能なものであるが、卓越主義の一種と目させる市民的共和主義と言われる立場などから導出される原理に基づき、日本国憲法を解釈しようとする場合には必ずしも重視されるべきものでないことを明らかにした。また、二つ目の点については、上記の日米の異なる憲法法理がそれぞれいかなる経緯と背景から生まれたものであるのかを確認した上で、さらに、その相違にもかかわらず、その双方の憲法法理が教育における国家の中立性の原理という同様の視点から説明しうるものであり、しかも、例えば、市民的共和主義などの他の政治哲学的な立場から導かれる原理から説明するよりも一貫したものになりうることを明らかにした。
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