研究課題/領域番号 |
19K13491
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
横田 明美 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 准教授 (60713469)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 行政情報法 / コロナ危機 / EU刑事司法指令 / データ保護 |
研究実績の概要 |
新型コロナウイルス感染症の発生後の社会の変化とそれに伴う行政における情報の利活用についての一連の研究をまとめるため、2021年度から開始したドイツにおける感染症予防法の改正過程と情報流通に与える影響についての基礎資料となる書籍の執筆に主眼を置いた。 その結果、2021年度に発表した論考に加えて、新たに大幅に加筆・修正をするかたちで、単著『コロナ危機と立法・行政』として、ドイツにおける感染症対応を、単なる行政法各論の視点としてではなく、行政情報法の進展との関係でも整理する形で出版することができた。 他方、本研究のもともとの主たる関心分野であるデータ保護法制についても、ドイツ・ベルギーの研究者の助言を得ながら、まずはドイツ国内のデータ保護法制とEUのデータ保護法制の関係を明確にするための基礎資料を提供することを目的として、「EU刑事司法指令のドイツにおける国内法化と十分性認定」を執筆し公表した。これにより、ドイツにおける法制度の多層性と監督機関の関係、行政情報法の総論部分と各論部分の関係、EU刑事司法指令との関係を示すことに成功した。 以上、ドイツの在外研究中に得た知見とそれを十分に解明するための基礎資料の作成に尽力した年度であったが、ここまでで在外研究期間が終了し、コロナ危機の影響もあって十分な情報収集が行えなかった点もあるため、研究期間を延長し、行政情報法全体をみるための論考の準備にあてることとした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ危機の発生に伴い新たに社会上のインパクトが増した各論分野(感染症対策と情報取り扱い)につき注力したため、行政情報法全体の総論的な課題についての検討が遅れている。他方、主たるテーマであるデータ保護法制について、日本の法制度との関係でもっぱら関心が集まる事象(ドイツにおける連邦制との関係)についてはかえってよく実例が収集でき、また、サイバーセキュリティ法制やデジタル化との文脈でも基礎資料が集まりつつあるため、当初計画よりもさらに複合的な検討が可能となる下地ができつつある。 また、未公表ではあるが、フランスをはじめとする複数の国との比較における日本の行政とAIの関係についての英語論文の執筆を行っており、これは本研究課題の当初予定にはなかったものの、各国比較の土台となる情報を提供するものとして有益なものとなることが見込まれる。 以上のことから、一面においては大幅に遅れている点があるものの、より複線的・複合的な研究が進展しており、その点においては当初計画よりも優れている点があるため、「やや遅れている」という自己評価に至った。
|
今後の研究の推進方策 |
ドイツのコロナ危機に伴う情報法制上の変更についてはおおむね調査が終わったため、今後はこのテーマについては一区切りついたものとして、上述の通り非常に遅れている総論的な課題を、特に日本の法制度の変動との関係で検討し、公刊を目指すこととする。 まず一点目は、日本の個人情報保護法制が大幅に変更され、公的部門・自治体についても統合されることになったことと、本研究で得られたドイツにおけるデジタル化対応における混乱とその対応との関係を明らかにすることにある。ドイツにおいても2022年末終結を目途にデジタル化が強力に推進され、コロナ危機における社会の変動も相まってそれが急激に進展しているところ、関連して情報セキュリティに関する法制度も変更された。まだこれらの状況を統合的に、かつ、行政情報法の視点から考察した論考はあまり見受けられないため、ドイツ国内での状況をまとめつつ、日本の自治体関係者等との議論を踏まえて考察したい。 もう一点は、警察法制と個人情報保護法制の関係について、検討を進めたい。ドイツ側の議論についてももう一段階議論を進める必要があるが、日本の法制度の変動についても研究し、考察する。令和3年個人情報保護法制改革において、民間部門と公的部門が統合されるだけでなく、地方自治体における個人情報保護法制も統合されたことは、大きなインパクトであるが、地方自治体に多く組織が配置されている警察についてはまだあまり考察がされていないのが現状である。ドイツにおける刑事関連の個人データ保護法制に関する検討が、この未開拓の課題にも一定程度生かすことができると考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ危機発生後に移動を伴う研究会・学会がすべてキャンセルになり、国際共同研究強化Aの遂行のために在外研究をしており、当初予定していた一時帰国もすべてキャンセルとなったことから、国内文献の収集に遅れが発生したことが主たる原因である。 研究計画自体もコロナ危機を受けて遅延しているため、追加の研究を行うとともに、収集した文献の整理・分析に伴う人件費、研究発表のための旅費として用いる予定である。
|