2023年度の成果は主に以下の2点である。 第1に、前年度において研究対象とした「地域」に関する研究をまとめ成果を公表した(「現在の『地域』と行政法学」法律時報 95巻10号(2023年)48-53頁)。具体的には、これまでの「地域」の様々な文脈から現代的文脈、すなわち、人口減少社会における①「地域」を客体とした「地域」のガバナンス論、②「地域」を主体とした公的組織化論を剔出し、検討した。本研究にとり特に重要なのは①であり、人口減少社会における地域協働、多元的協働、ネットワークは、自治体の参加も不可避的に生ぜしめることが示唆された。 第2に、個人の参加に焦点をあてたものであるが、人口減少社会における参加のあり方を検討し、成果を公表した(「縮小社会における『参加の行政法』」 法学教室 517号(2023年)16-22頁)。人口減少社会におけるコンパクトシティーなどの政策分野では、その構造上、多元的・多段階的・継続的・学習的・自律的参加が不可避であることが明らかになり、この可能性は自治体の参加も正当化できる。また、同様の構造的な協働的参加の可能性は、すでに本研究において、不確実性リスク管理が問題となる行政法分野で明らかにされている(「自治体の関与の正統性と法的根拠-安全規制への周辺自治体の関与を中心に」山下竜一編『原発再稼働と公法』(日本評論社、2020年))。 派生的研究成果としては、「長の解職投票における金銭の授受」、「住民投票不成立の場合の投票用紙開示請求」飯島淳子ほか編『地方自治判例百選[第5版](別冊ジュリスト)』(有斐閣、2023年)、「辺野古基地訴訟の基本構造」ジュリスト1593号(2024年)、「いわゆる『裁定的関与』に対する原処分庁の属する自治体の出訴適格」新・判例解説Watch33号(2023年)がある。これらは、本研究の参加の側面と出訴の側面にかかわる。
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