本研究の目的は、社会権(とりわけ生存権)の存在証明と、実効的な社会権の保障を達成することである。本研究は、次の3つに区分される。第1に、ドイツにおける社会権の構造の解明、第2に、ドイツの社会権に基づく司法的統制のあり方の解明、第3に、日本への「枠組的権利」論の応用可能性の模索である。 第1の点については、すでにある程度は明らかにしていたところだが、さらに社会権の枠組的構造がドイツにおいてどのように導かれたのかについて検討した。ドイツでは、戦後から行われてきた社会保障制度改革のなかで、社会権を保障するうえでその都度必要となる規範的要請を憲法から導き出してきていた。とりわけ、ハルツⅣ改革で出された自己責任を重視する方向性に対して、ドイツでも解釈上生存権が承認され、規範的要請が主観的権利化したことは大きな出来事であった。日本でも同様の方向性が打ち出され、切り下げがなされるなかで、そうした改革に対する憲法のリアクションが必要となるはずである。 第2の点について、ドイツ連邦憲法裁判所は、生存権を保障する法律で規定された保護基準額が明らかに低廉すぎることを理由に違憲としたり、その保護基準額に至る計算が首尾一貫していないことを理由に違憲としたりしている。さらに、保護基準額から制裁的に減額がなされる事例について、比例原則を用いて違憲とした事例もある。これらの司法的統制の手法は日本においても参考になる。 第3の点について、日本でも近時下級審レベルでは、生活保護費の切り下げを「違法」とする判決が出ている。これはドイツでは憲法レベルでなされているのと同様の議論を、法律レベルでしているように思われる。ドイツの手法が応用可能であることが明らかになってきている一方で、法律が改正されると、日本での手法はもはや通用しなくなる。やはり法律レベルの議論を一部憲法レベルに「格上げ」する必要もあるだろう。
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