研究課題/領域番号 |
19K13497
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研究機関 | 流通経済大学 |
研究代表者 |
水林 翔 流通経済大学, 法学部, 准教授 (00826240)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フランス憲法 / 憲法学 |
研究実績の概要 |
20年度はミシェル・フーコーの研究を通じて、近代的個人がいかなる権力構造のもとに産出されるのかという点を研究してきた。 そこで得られた研究成果を踏まえ、21年度は近代フランス法生成の過程をより深める分析の一断面の研究として、フランス革命期の市民citoyen概念の内実について研究を行った。 その内容を要約すれば、フランス革命期における各種憲法や選挙法の制定において、フランスの市民(政治的能力を有する個人)としての資格には、単に投票をすることのみが許される者から選挙人となり国会議員を選出しうる者など、複数のレベルが存在することがまず指摘しうる。こうした点はすでに多くの論考で分析されてきたが、とりわけ本研究が着目したのは投票を認められる最低限の資格とは一体いかなるものかという点であった。 この点、1795年憲法においては、労働と読み書きが投票権を認めるためのメルクマールとして規定されるに至った。その背景には、当時「一人前の市民」との対で浮浪し労働を拒否する物乞いの存在が社会的な問題としてクローズアップされていたことを指摘しうる。共同体の一員として、職に就き、定住し、かつ読み書きという最低限の教養を身に付けることが、近代的個人の要素であったのである。 さらに、こうした近代的個人としての要件を満たさない物乞い等には、強制力の行使をも含む強制的な「教化」の制度が用意されていたのであり、こうした意味で近代的個人の産出は規律権力とも関係するものであったといいうるように思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近代フランス法の生成という研究課題の中でも、とりわけ近代法の生成期たるフランス革命の市民概念の析出を通じて、近代法がいかなる個人像を予定していたかという点を明らかにすることができた。 近年、とりわけ労働の世界において世界的に「自己責任」といったキーワードによって、個人の能力の向上への社会的経済的な圧力が強まっており、かつそうした競争に適応できなかったものを切り捨てる政策が諸国で進行しつつあるが、法的な観点からは、そうした政策ないしイデオロギーを支える方便として近代法の諸原則が用いられることが問題として指摘しうる。果たして近代法がそうしたイデオロギーに尽くす内容を真に有しているのかという点が残された課題である。
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今後の研究の推進方策 |
22年度においては、これまで得られた研究成果をもとに、19世紀初頭の法典の整備の時期にも研究の射程を広げたいと考えている。というのも、革命期に生成された個人像が法典という形で具体化されてゆくのが19世紀初頭の法典化の時代であったからである。 この時期を分析することを通じて、近代的な個人の内実をより深く分析するとともに、そこで得られた研究成果が、現代のわれわれにとっていかなる示唆を投げかけるのかという点を検討してゆきたい。 なお現時点では、現代の労働者を取り巻く「自己責任」論と近代法の関係を歴史的に読み解くことを課題とすることを予定しており、そのためにはとりわけ民法典における「労務の賃貸借」という概念の生成を巡って研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外からの書籍の購入について、配送期間の長さ等の理由から当該年度に間に合わず購入を見送ったものがあったため、22年度の研究に使用する書籍代等に充てる予定である。
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