本研究の目的は、次世代が求める交通システムについて、計画法の観点から、それを支える統合的な法的基盤の構築を試みることであった。すなわち、現代社会が求める交通政策には、さまざまな要請が反映されるため、それを支える法領域が多岐にわたっており、かつ、それら各法領域は独自の法理論を発展させてきた。そして、そのような諸法令に基づく権限は、複数の主体に分担されている。そうした複雑な利害状況の下にある交通政策について、どのように、各法領域および諸権限の調整を横断的に図っていくのか、そして、その全体的な合理性を如何に担保するのか、このような学術的な問題意識を出発点として、わが国の行政法が手本としたドイツ法との比較法研究を行ってきた。 2023年度は、2022年度に引き続き、ドイツ連邦共和国ボン大学法学部での在外研究に従事する傍ら、本研究を遂行した。当地では、気候変動や高齢社会への対応を背景に、交通改革(Verkehrswende)に関する議論が活発であり、在外研究中、とりわけ、公道空間の再配分や公共交通における定額割引運賃制度の導入といった文脈での議論が目についた。そこで、上記の研究目的を踏まえ、こうしたドイツの交通改革に関する法的問題を素材に、具体的には、駐車に関する法的課題や交通財源に関する法的課題、を深堀する作業に従事し、論文の執筆を進めていった。加えて、インフラ行政に関する論考の書評を行った。 研究期間全体を通じ、交通政策を支える各法領域の射程および限界について、ドイツの判例および学説を丹念に紐解きながら、わが国の交通法制と整合させつつ、その体系的な整理を図ることができた。
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