研究課題/領域番号 |
19K13503
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
三上 佳佑 南山大学, 法学部, 講師 (80805599)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 議院内閣制 / 弾劾制 / 大臣責任制 / フランス公法学 / 憲政史 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、大革命以来の初期議会制、立憲君主制、大統領制、議院内閣制の展開の中で、フランスにおける大臣責任制が、如何なる経緯を辿って歴史的に形成されてきたかを、歴史的な方法論を用いて、実証的な形で解明することであった。そして、このような目的を達成する為に、本研究は、フランス大臣責任制を構成している二極的原理である「政治責任」原理と「刑事責任」原理が、同国の憲政上、如何にして形成され、相互に連関しながら如何なる展開を見せてきたかという視角を問題意識の中核に据えて研究を行うことを企図していた。 本研究初年度における研究実績は、同年度中に公表された論稿「1875年憲法的諸法律における大臣責任-大臣の政治責任制の構造と動態-」『南山法学』第43巻第1号(2019年9月)27~75頁において示されている。同稿は、第三共和制の初期段階において、同体制の憲法的諸法律に基づく大臣責任制が如何なる形で形成・展開・定着したかを跡付けるものである。体制の共和制的枠組みの中で「国家元首無答責原則」と「大臣責任制」を結合させた「議院内閣制的共和制」の解法に、大革命後100年を経たフランスが到達した経緯を明らかにした。政治的妥協の上に成立した憲法体制における大臣責任制が必然的に規律密度の低いものとなった事情を指摘し、政治動態における欠缺の補完が具体的に如何なる形で為されたのかについても検討されている。以上のような同稿は研究成果は、法制定過程に関する、一次資料の検討に基づいて齎されたものである点で、実証性に富むものであると考える。それと同時に、同稿は、第三共和制憲法構造の成立に与った力のあった、プレヴォ・パラドル、ブロイ公らの思想的検討や、第三共和制期に成立を見た同国の公法学説による同時代的検討の分析等、二次資料に対する立ち入った検討も加えており、その方法論は綜合的なものであると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度中の研究進捗状況は、おおむね順調なものである。 本研究における具体的な研究成果を、2019年度中に上記「研究成果の概要」欄にて言及した、具体的な論稿として公表できたことは重要な成果であると考えている。また、同論稿が、比較憲法学上も、またフランス公法学・憲政史学上、また、比較憲法学上、格別のウェイトを以て論じられている第三共和制に関わるものである点も、研究進捗状況が「おおむね順調に進展している」と判断する理由である。 本研究の開始時点において、大革命期と19世紀前半の立憲君主制期に関する実証的検討を高い水準で達成していた研究代表者の研究段階において、第五共和制に至るまでの歴史的検討の中で、最も集中的な分析を要する領域が、第三共和制であった。かかる領域に関する検討中、政治動態についての詳細な検討は今後の課題として残されてはいるものの、同時期の初期段階に関する理論的検討と、憲法典に関わる制度的検討を概ね完了することができたという事実は、本研究の完成に向けての極めて大きな前進であると評価できるのである。
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今後の研究の推進方策 |
今後、研究を推進してゆくにあたっての、基本的な「方針」「方策」については、現時点において、概ね以下の通り、計画している。 第一に、研究の基本的な方法論は、これまで同様のものを維持・踏襲する。すなわち、公法学説の古典的・現代的水準への十分な目配りの下、理論的分析の遺憾なきを期するとともに、それ以上に、一次資料の広汎な渉猟と丹念な分析に基づく、研究の実証性確保に遺憾なきを期するよう努めるという方針は、今後も維持される。 第二に、今後の研究内容であるが、三つのものが想定されている。第一に、第三共和制に先立つ歴史的段階のうち、現時点において未だ十分に手をつけられていない、1814年~1830年のブルボン復古王政期に関する研究の完成が急がれる。第二に、第三共和制に関する検討のうち、20世紀初頭以降の政治動態についての早急な分析を行うことが、2019年度の研究実績から当然に要請される。第三に、2019年度中における研究実績から得られた比較憲法学的知見をもとにして、イギリスあるいは日本といった、フランス以外の大臣責任制の研究に視野を広げることであり、これは本研究が当初より計画していた事柄である。いずれにせよ、これら3つの問題関心を2020年度中において同時並行的に進めていく必要があると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
web上で費用を伴わずオープンアクセスできる史資料の増加による経費節減の効果があったことと、所属大学における個人研究費による研究支援があったことにより、次年度使用額が生じた。新型コロナウイルス蔓延に伴い、資料収集等に伴う出張がどれほど行えるかは現時点において不分明であるが、次年度使用分を有効に活用し、総合的に研究活動を展開していきたいと考えている。
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