研究課題/領域番号 |
19K13503
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研究機関 | 朝日大学 |
研究代表者 |
三上 佳佑 朝日大学, 法学部, 講師 (80805599)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フランス憲法 / フランス憲法史 / 議会制 / 大臣責任制 / 弾劾制 |
研究実績の概要 |
2021年度における本研究課題の遂行の過程での研究実績は次の二点である。 第一に、本研究課題が対象・検討領域として設定した1789年の大革命以降のフランス憲政史の全領域の内、1814年~1830年までのブルボン復古王政期における大臣責任制の動態に関するものである。この研究実績は、論稿「フランス大臣責任制の展開における復古王政期の地位」『朝日法学論集』第53巻(2021年)として公表されている。この時期は、フランス憲政がイギリスから議院内閣制を継受し始めた嚆矢の時期として一般に性格付けられており、フランス憲政史上、とりわけ議会制史上、格別の重要性を持つ。本研究課題のこれまでの遂行過程において、必ずしも分析を詰められておらず、論稿としての業績の形で完成していなかった考察が完了したこととなり、本研究課題の完成に向けて、大きな意味を持つと評価し得る。 第二に、口頭発表であるが、「議院内閣制の「継受」という問題-近代フランス憲政のばあい-」と題する報告を、中部憲法判例研究会(2021年9月例会・2021年9月4日オンライン開催)で行った。本研究課題は、フランス憲政史を通じてそこでの大臣責任制が、刑事責任原理とその制度的組織化態様としての弾劾制、政治責任原理とその制度的組織化態様としての議院内閣制的大臣責任制という二つの対立軸の中で具体的に如何なる形相を呈したかを実証的に跡付けることを研究の目的としている。他方で、発展的には、イギリスを範型とする議院内閣制的大臣責任制との比較において、「大臣責任制の範型としてのフランス」の特質を顕在化させることもまた、付随的には研究目的としている。本報告は「制度継受」の過程で、フランスがいかなる自己認識を持って議院内閣制と向かい合ってきたか、という分析視角に立った憲政史研究であり、本研究課題の完成度を高めることに裨益するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度における研究進捗状況に関して、「やや遅れている」という自己点検・評価を行う理由は、以下の二点にある。 第一に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う影響を挙げられる。教育業務形態の変転(対面講義とオンライン講義の切り替え)と、それに伴う教育エフォートの増大等によって、本研究課題に宛てられたエフォートが若干ではあるが、低下せざるを得なかった。また、研究会の形態が変化したことによる研究者間での交流の低下や、資料収集の自粛などによって、研究進捗速度が若干ではあるが低下したものと考える。 第二に、本研究年度とその周辺において、本研究課題が具体的な遂行対象とした時代区分の、憲政史学・比較憲法学上の学術的ウエイトの「重さ」が挙げられる。そこでは、大革命後の立憲君主制の時期を検討対象としたわけであるが、この時期はフランスにおける議院内閣制の萌芽期であり、研究の主題である「大臣責任制」については刑事責任原理と政治責任原理と言う本研究の分析視角が混淆から後者の優越へと離陸していく時期である。従って、この時期においては、分析すべき一次資料も極めて多く、その検討には多くのエフォートを要した。結論として行われる分析評価についても、一層の慎重さを要するものであった。このような事情は、研究課題の「進捗」という時間的な側面において、若干のマイナス要因として作用したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
現時点での研究進捗状況においては、本研究課題は、フランス憲政史における共和政体確立以前の段階についての分析検討をいちおう既に完了したものと考えている。したがって、今後の研究の推進方策としては、検討領域をフランスにおける共和制確立期に移し、具体的には次のような目標と方法を採ることとなる。 今後の研究目標は、フランスにおける共和政体を確立した第三共和制及び第四共和制の時期(1875年~1940年)の段階において、フランス議会政における憲法実践が、議院内閣制のフランス的範型を、大臣責任の原理を如何に運用することによって生成したか、という点を明らかにすることにある。この検討領域に対する分析を行い、同歴史段階に対する性格評価に関して一定の結論を得ることを、本研究課題の完成の為に極めて重要かつ必要不可欠である。 また、以上のような研究目標を達成するために、具体的に、次のような方法を採ることを企図している。第一に一次資料への分析を重視する。議会資料その他の生のデータに対して、ある程度以上の量的充実性を以てアプローチすることは、研究の実証性を高めるために不可欠だからである。第二に、二次資料、なかんずく公法学・憲法学の学説と理論に対する批判的分析検討の必要性である。第三共和制以降のフランスにおいては、それ以前と異なる、政治的変動に大きく規定的な影響を受けつつも、しかし、学問として一定の自律性を持つ「公法学理論」が形成された点を軽視できないからである。 以上の研究目標及び方法を設定することによって、本研究課題の計画する全体的到達目標を高い水準で達するべく努めたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
21年度の研究進捗状況に関し、感染症拡大に伴う教育研究業務の状況変化の中で、本研究課題に係るエフォートの状況にマイナスの変化が生じたこと、また、研究の完成、総括的評価の段階が近づくにつれて、これまでの研究内容への振り返りなどが生じたことで、研究費を使用した新たな研究の進捗に遅れが生じた状況がある。 翌年度分として請求した助成金に関しては、年度当初の段階より、書籍を中心として積極的に使用していく計画である。研究課題が完成に近づくにつれ、本研究が研究テーマとしている「フランス大臣責任制」の歴史的全体像が顕在化している。このことは、より本格的な比較憲法学・比較憲政史学的な視角から研究テーマに肉薄することが可能になったことを意味しているのであり、フランス憲政に関わる図書・資料購入のみならず、寧ろ、各国憲法・議会制・法制史学に関わる図書・資料収集の意義が増大しており、そのような分野における予算使用計画を強く意識している。
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