本研究は、伝統的通説が実体的意味での「公定力」という概念を用いて説明してきた種々の制度や問題点に焦点を向け、いわゆる「取消訴訟の排他的管轄」ないし「取消訴訟の排他性」論をもってこの「公定力」に代替し、整合性のある説明をすることができるのか(あるいはできないのか)、その限界の分析を試みるものである。 まず、本研究では、違法性の承継に係る問題について学説状況を整理し、先行処分の違法性が後行処分の取消訴訟において主張されることの構造分析を行った。その上で、先決問題として設定される先行処分の違法主張の性質を明らかにし、同主張は取消判決の拘束力を経由することで、ひいては先行処分の効力の覆滅を目的としている点から、その主張遮断は(処分の効力の通用力としての公定力を手続的に基礎づける)取消訴訟の排他性によって根拠づけることができることを示した。この点については、成果(海道俊明「先決問題と取消訴訟の排他性に関する一考察ー違法性の承継問題を手掛かりにー」近畿大学法学68巻4号33-64頁)を公表済みである。 また、取消訴訟の排他性は、手続的観点から認められるいわゆる本案主張制限の問題であるところ、同様に手続的観点から本案における主張が制限される場面として、不服申立前置主義ないし裁決主義が採用されている場合が考えられる。すなわち、当該不服申立(審査請求)において当事者が主張せず、したがって審査機関が審理できていなかった事項を後の取消訴訟において主張することができるかという問題である。類似する問題状況を設定する制度の考察から、取消訴訟の排他性による本案主張の遮断の外縁と実質を検討するという見地から、以上の論点を扱った判例の評釈を行い、成果(海道俊明・「判批」判例時報2464号142頁〔最判令和1年7月16日〕)を公表している。
|