研究課題/領域番号 |
19K13511
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
周 セイ 久留米大学, 法学部, 准教授 (50633476)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 公益 / 規制 / 正当性 |
研究実績の概要 |
最初交付の2019年度においては、申請者が主に基礎概念についての考察を行った。 公益性の高い事業分野においては、民営化・公私協働によって、提供主体と利用者との間には、通常、サービスの受給及び費用等に関する契約が締結されるが、その際に、特に私的主体によるサービスの提供については、契約の内容及び手続等に関する公的関与、いわば「規制(regulatory)」が必要とされていた。しかしながら、従来、公的関与を正当化する根拠に関する議論の中では、「公益(public interest)」という概念が多く言及されていたものの、その概念自体に関する法的研究、特に公法学上からのものは少なかった。そこで、申請者は、特にイギリスにおいて民営化及び再国有化の過程をともに経験した鉄道事業について、「公益」概念に関する理解の変遷、公法・行政法学上からの議論等を考察した。考察の結果は、以下のようである。第一、イギリスの公法学上における「公益」の概念は、政治学、哲学等の影響を受けるものである。また、裁判の実務上においては、イギリス固有の歴史的な影響もあるため、「公益」の概念には手続としての側面もみられる。第二、民営化の進展に従い、「経済的規制」や「社会的規制」といった主張が登場し、「公益」概念の形成には一定の影響が与えられている。すなわち、民営化の初期においては、公共経済学の影響を強く受け、「公益」に対する理解が「市場による資源の最大限かつ有効な再配分」に偏っていたが、中後期に入ってからは、特殊な事業分野における「社会的責任」が強調され、単なる「経済的状況」ではなく、「身分関係」の重要性が唱えられていた。ただし、それは「公益」ではなく、「社会的規制」として議論が展開されている。最後、イギリスにおいては、「公益」概念に関する公法学上の考察は、民営化・規制の仕組み上、一定の影響を与えたものと評価すべきである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の基礎的部分である「公益」概念に関する考察は、以上のように、おおむね順調に完成し、その成果を公表した。 しかしながら、従来、上記の研究考察のほか、2020年2月中にイギリスへ渡航し、①「公益」の概念に関する裁判上の判断基準を判例収集・分析に基づき整理すること、②規制機関のヒアリングを実施し、実務上の「公益」の該当事項、規制側の処理実態等を確認すること、③学者と意見交換を行うこと、④上記の作業を踏まえて、研究成果を執筆し、公表することが実施される予定であるが、コロナウイルスの影響でイギリス及び日本ともに出入国制限やテレワーク等が行われている結果、予定通りのすべての作業ができていない。 代替案としては、①コロナウイルスの影響によって一部期間限定で公開されるデータベースを利用して関連資料を収集すること、②イギリスの学者とメールでの連絡をより頻繁に行い、意見交換をすること、③上記渡航を2020年8月・9月に延期することなどを検討し、一部はすでに実施している。
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今後の研究の推進方策 |
途中年度である本年度も研究実施計画に従い、従来の予定を延期して実施するほか、順次研究成果を公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年2月中にイギリスへ渡航し、①関連資料の収集、②学者との意見交換、共同研究の可能性に関する打ち合わせ等、③もっとも研究上重要とされる規制機関及びサービス提供私的主体へのヒアリング、契約運用の実態研究、また、④日本国内の関連調査(JR北海道へのヒアリング)を予定しており、そのために、海外への渡航費用、国内の研究に関連する費用等を計上していたが、新型肺炎の影響で、イギリスは入国制限、北海道は移動自粛などの政策が実施されることとなったため、予定通り実施することができず、研究費の繰越金(次年度使用額)が多く生じている。2020年度は、上記の計画の中、特に①イギリスについて8月中に一か月程度滞在し、関連の考察・ヒアリングを実施することを予定している。また、②日本国内のヒアリング等については、12月もしくは2021年2月頃に実施する予定である。 さらに、従来通り、研究上必要不可欠な洋書、雑誌等を代理店を通して購入することも今年度予定している。
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