本研究では、①アメリカにおける思想・良心の自由の保護枠組みの解明、②アメリカと日本の比較法的研究、③教育法・法社会学など法学の諸分野、あるいは教育学や社会学などの成果を参照しながら、思想・良心の自由実現のための制度的条件や課題などを明らかにする発展的研究、という3つの研究課題を設定している。 最終年に当たる本年度は、これまでの研究で得られた知見を総括する研究成果を書籍として執筆し公表するとともに、昨年度に引き続き②、③の研究課題に関する研究を進めた。 総括的な研究として、これまで明らかにしてきたアメリカの信教の自由の二元的な保護枠組みを日本の思想・良心の自由にも適用できることを明らかにした。この枠組みは、一般的・中立的な法規制からの例外的免除をその内容とする「法義務免除の法理」と、思想・信仰抑圧的な法規制からの防御権を内容とする「敵意の法理」および「思考プロセスの自由」からなる。アメリカでは両者が内心の自由の保護の車輪の両輪的な法理として機能してきており、このことで主観的な良心と法の相克の問題と思想弾圧の問題という異なる内心の自由の制約類型に対応することが可能となっている。 また、②③についてはトランプ政権以降顕在化した、信教の自由や表現の自由をマイノリティの権利制約のために用いる「人権の武器化」の問題が、日米の思想・良心の自由を比較する際に極めて重要な要素になると考え、昨年に引き続きこの問題を中心に分析を続けた。 本研究では、研究計画で予定していたアメリカでの調査研究がパンデミックの影響で中止となり、アメリカについての歴史的な分析にかかわる研究計画は変更を余儀なくされた。このため、比較的資料収集が容易な現代の連邦最高裁判所の問題を分析の中心にすえた研究となっている。
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