研究課題/領域番号 |
19K13514
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平見 健太 東京大学, 社会科学研究所, 研究員 (10812711)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 国際法 / 国際経済法 / 無差別原則 / 平等 / 規制裁量 |
研究実績の概要 |
2019年度は、平等論に関して法学・倫理学・政治哲学分野等の先行研究を幅広く渉猟し、あらゆる平等規範に通底する規範構造とその特質を把握することに努めた。こうした作業を通じて、平等/差別概念の構成要素と各要素の意味、また平等概念は目的かあるいは手段か(すなわち、平等概念と実体的な価値の関係性) といった論点につき、理解を深めることができた。 そのうえで、本研究課題の主たる研究対象たる国際経済法の文脈においては、各種の無差別原則を解釈適用するに際して、(1)同種性(likeness)の有無の評価、(2)同種の対象間における不利益的効果(detrimental impact)の有無の評価、最恵国待遇原則に関してはこれら要素に加えて(3)無条件性要件(unconditionality)への該当性評価が共通して問題となってきており、これら各要素の評価基準や要素同士の関係性の捉え方如何が、無差別原則運用の鍵をなしていることを明らかにした。また、国際経済法上広く普及している「無差別原則=競争条件の平準化」という固定観念が、上記各要素の評価の在り方にどのような影響を及ぼしてきたのかといった点についても、相当程度明らかにすることができた。 その結果、国際判例を通じて発展してきた無差別原則に関する既存の解釈論的枠組が、上述の固定観念によっていかに支えられているのか、またこうした解釈論が、国家の規制裁量の確保という現代的な要請に直面することでいかに相対化されうるのか、今後の検討の道筋を発見することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」欄に記したとおり、無差別原則の規範構造とその特質を把握することを通じて、既存の解釈論的枠組の構造とその問題点をひとまず可視化することができた。こうした成果を土台とすることによってはじめて、無差別原則の解釈論を再構成するための具体的方途を検討することができるようになるため、本研究の進展にとってのいわば第一関門をクリアしたものと評価することができる。 また、以上の2019年度の研究成果の一部を研究論文として執筆する機会を得、学会誌に掲載される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究成果をふまえ、2020年度は無差別原則の解釈論を再構成するための具体的方途を検討してゆく。この過程で注目すべき資料として、Robert Hudecの先行業績と、通説とは異なる見解を提示した国際判例(たとえば、EC-Asbestos事件上級委員会報告(2001年)など)が存在する。これらはいずれも、無差別原則の市場志向的な解釈論に疑義を呈するものであったが、公表時には問題意識が十分に共有されず、さほど注目を集めなかった。こうした資料を再吟味し、その立論方法と背後にある思想を理解することは、本研究課題の今後の進展にとって重要な示唆を提供するものと思われる。 なお、当初の計画では2020年度に国際学会にて研究成果をふまえた報告をおこなう予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により学会が中止となるなど、学会報告の機会はなくなりそうな状況にある。こうした事情にかんがみ、研究成果の公表時期については2021年度に後ろ倒しする可能性も視野に入れつつ、研究を進めてゆくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定図書の出版延期と2019年度末の出張がキャンセルになったため、未使用額が発生した。 図書購入と研究出張は2020年度以降にも必要になるため、その場合には未使用額分を使用することとしたい。
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