研究課題/領域番号 |
19K13515
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研究機関 | 金城学院大学 |
研究代表者 |
竹内 徹 金城学院大学, 国際情報学部, 講師 (90823138)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヨーロッパ人権条約 / ヨーロッパ人権裁判所 / ヨーロッパ評議会 / 実施機関の多元化 / 実施機関のネットワーク化 / 公正な裁判を受ける権利 / 再審 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヨーロッパ人権条約の実施において、ヨーロッパ評議会およびEUの複数の機関が緊密に連携しあうことで一種のネットワークを形成しているという仮説のもとに、各機関の活動内容・役割とその関係性を明らかにしようとするものである。この課題に対して、昨年度は主として、国際的裁判所であるヨーロッパ人権裁判所が国内裁判の不備について条約違反を認定した場合に締約国は再審義務を負うか、という論点に焦点を当てて研究を進めた。 人権裁判所は従来、国内裁判の手続について条約違反を認定した場合でも、締約国には再審義務は生じないとしてきた。現在でもこの判例は踏襲されているものの、他方で人権裁判所は、その判決のなかで、再審の実施が判決を履行する最も適当な方法であると述べて、締約国に再審を促すという実行を積み重ねてきた。ところが、再審義務の有無が争われた2017年の事案で人権裁判所は、締約国に再審を命じる権限が自身にはないとしたうえで、こうした「勧告」の(法的)効果について、広範な裁量を締約国に認めるものだと述べたのである。この判決を注意深く読み解くと、国際的裁判所による違反認定を理由とする再審義務の有無というナイーヴな問題に関与することを避けようとする、ある意味での戦略的判断を人権裁判所に観察することができる。 他方で、ヨーロッパ評議会閣僚委員会は、人権裁判所判決の履行監視機能を通して、また締約国に向けて発する勧告を通して、人権裁判所による違反認定を理由とする再審を可能とする法整備を行うよう締約国に求めてきた。結果として現在では、とりわけ刑事裁判について、大多数の締約国がそのような国内法を整備している。再審の実施については、人権裁判所によるハードなアプローチだけでなく、閣僚委員会によるソフトな取り組みも相俟って進捗してきたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヨーロッパ評議会の複数の機関の連携関係を明らかにするために、昨年度は特定の論点(人権裁判所による違反認定を理由とする再審の実施)に焦点を絞って研究を進めた。こうした手法は、関係機関の具体的な活動を捕捉してその関係性を明らかにするうえで有効であることが分かった。実際、「研究実績の概要」の欄に記載したように、少なくともその一端を明らかにすることはできたと考える。 他方で、昨年度に実施した作業からは、このように人権裁判所と閣僚委員会の活動とその関係性(ある種の協働関係)が明らかになる一方で、ヨーロッパ人権条約の実施をめぐる、他の機関も含めたヨーロッパ評議会の活動の全体像を捕捉するまでには至らなかった。本課題の目的は、EUの関連機関も含めて、こうした全体像を把握することにある。その意味では、ヨーロッパ人権条約の実施をめぐる、実施機関の「多元化」および「ネットワーク化」という現象を、十分に実証的に描き出すことができたとは言い難い。
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今後の研究の推進方策 |
上に述べた昨年度の活動の(一定の)成果と反省を踏まえて、今年度も引き続き特定の論点に焦点を絞りながら研究を進めるものの、その際に、ヨーロッパ評議会の機関横断的な論点を見つけ出すことに注意を払うようにする。そのようなものとして、人権裁判所判決の履行を挙げることができる。詳細な分析は今年度の作業になるが、人権裁判所判決の履行には、その監視を任務とする閣僚委員会の他に、人権弁務官、議員会議、事務総長(および評議会職員)、ベニス委員会などが関与している。これらの機関の連携関係を明らかにすることを目指す。 また、近年、国際的裁判所である人権裁判所(の判決)の正統性に対する批判が一部の締約国を中心に高まっていることを踏まえて、条約制度の形成過程における参加機関(アクター)の多元化あるいはネットワーク化という現象にも着目する。こちらについても詳しい分析は今後の作業となるが、以前に比べて現在では、条約制度の形成や改正に関与するアクターは明らかに多様化している。こうした多様なアクターが連携しあう、いわば「公共空間」のなかで条約制度が発展を遂げているように思えるのである。こうした仕組みやその実態を明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた最大の原因は、現下の状況で、海外調査ができないことである。国内の出張も制限された状態にある。こうしたことから、旅費として当初想定していた額に相当する金額が未消化のまま残った形となる。 現地調査が制限されるという状況は、今年度も基本的には続くものと考えられる。これは、予算の使用のみならず、資料収集という観点から研究の中身にも影響を及ぼすものである。そこで、例えば、現地(フランス)の知り合いの研究者に依頼して、資料収集を代行してもらう等の可能性について現在検討している。その場合には、人件費や謝金等を支払うことになるものと思われる。 その他、昨年度同様、関連書籍や雑誌などの購入を積極的に進める。
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