研究課題/領域番号 |
19K13516
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
中村 知里 関西大学, 法学部, 助教 (30807475)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 国際裁判管轄 / 人格権 |
研究実績の概要 |
令和元年度においては、表現の自由と人格権の抵触が見られる事案類型である、名誉毀損やプライバシー権侵害について、いかなる要素を考慮して国際裁判管轄の判断がなされているかにつき検討を行った。 この検討では、まず、EU及びドイツにおける議論を整理・分析した。具体的には、欧州司法裁判所やドイツ連邦通常裁判所の裁判例を出発点とし、人格権侵害事件の国際裁判管轄をいかなる基準により定めているか分析した。次に、裁判例と合わせて学説上の議論も分析し、いかなる判断基準を採用するかにつき、分岐点となる考慮要素を明らかにした。この分析によれば、管轄の判断においても表現の自由に対する過度の制限や萎縮効果を及ぼすべきでないという視点が存在していた。また、管轄とは異なる文脈であるが、インターネット上に掲載した記事等の削除を求める訴訟において、ある国における判断が世界中での閲覧を不可能とし、他者の情報へアクセスする権利にも影響を及ぼすことには問題があるとの指摘が見られた。 さらに、比較法的分析により明らかになった国際裁判管轄の考慮要素を前提としつつ、名誉毀損やプライバシー権侵害の国際裁判管轄が争われたわが国の一連の裁判例(東京地判平成25年10月21日、東京地判平成28年6月30日など)について分析を行った。一連の裁判例は、インターネット上に掲載された記事がわが国において閲覧可能であるとしても、それのみではわが国に国際裁判管轄を認めず、加害者が記事を内国へと向けていない場合には管轄が否定されうる傾向を示していると考えられる。表現の自由に対する言及はなされていないが、わが国における閲覧可能性のみで管轄を認めないことは、表現の自由に対する萎縮効果を生じさせない上で重要であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
十分な資料、文献を収集し、分析・検討を進行している。しかし、表現の自由と人格権に関しては当初の計画よりも検討すべき事柄が多く、一部分析、検討が完了していない。引き続きこれらの分析を本年度も進めた上で、他分野に関する分析に入りたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度においては、表現の自由と人格権に関する検討、分析を引き続き行った上で、当初の予定通り、他の分野における国際裁判管轄についての分析を進め、人権規範が国際裁判管轄にいかなる影響を及ぼしているか検討するための基礎を整理する。そのために、まずは他の不法行為類型(すなわち、関連する権利が異なる不法行為)における国際裁判管轄の分析や、請求内容(損害賠償請求や差止請求、消極的確認など)を意識した国際裁判管轄の分析を行う。また、人権規範の意義を明確にするために、狭義の国際私法に関する考察も並行して行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では令和元年度中に検討を開始する予定であった領域について、購入予定であった書籍等の入手に至らなかったため、次年度使用額が生じた。また、台風や感染症の影響で出張予定が複数中止になり、旅費の使用予定がなくなったことも影響している。 当初計画において令和元年度中に入手すべきであった書籍については、本年度中に入手予定であり、次年度使用額と合わせて支出する。また、研究成果の報告や資料収集のための旅費としての使用を予定している。
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