政府職員が公的資格で行った行為は他国の刑事管轄権から免除されることが国際法上認められている。当該免除は、政府職員が行為の性質に着目して認められることから、政府職員の「事項的免除」と呼ばれる。 政府職員の「事項的免除」に関する近年の議論を渉猟すれと、最大の解釈論的争点は、それが国際犯罪にも及ぶか否かであることが明らかとなった。また、ILCにおける法典化作業や、近年の国際判例を踏まえた学説では、政府職員が公的資格で行った行為であるか否かを判断する際に、国家責任条文における行為帰属規則を適用・参照することの是非についても議論されていることが確認された。前者については、免除を否定する実行や学説が多いものの、国際犯罪の強行規範としての性質に着目するもの、一般国際法上普遍的管轄権が設定されていることを理由とするのも、条約で普遍的管轄権が義務付けられていることが必要であると論ずるもの等、その理由づけは多様であり、免除が否定される範囲は不明確である。後者については、行為帰属規則に依拠すること是非自体について見解が分かれている。そこで、本研究では、政府職員の「事項的免除」がなぜ認められるのか、という免除の理論的根拠にさかのぼって、これらの問題を検討する視点を得ようとすることを試みた。 「事項的免除」の理論的根拠については、国家免除の適用によるとの立場や、公的資格で行った行為は本国に帰属するため職員には責任自体が発生していないとする立場がみられるが、先例を検討すると、当該行為の合法性やその法的帰結については本国に判断権が国際法上認められており、他国が判断することは不干渉原則によって禁止されることが根拠とされていることが明らかとなった。したがって、国際犯罪や行為帰属規則との関係も、この本国の判断権との関係で検討すべきことが示された。
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