研究課題/領域番号 |
19K13520
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
佐藤 量介 成城大学, 法学部, 准教授 (10707342)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 国際法学 / 国際公法 / 国際組織法 |
研究実績の概要 |
令和3年度は国際組織法研究における公法アプローチの適用に係る研究を試みた。具体的に得られた考察結果は以下の通りである。
(1)国際組織法研究において公法アプローチの適用が提唱された理由は、機能主義が国際組織法上もたらす問題への批判と処方のためといえる。これを「理論的処方箋としての公法アプローチ」とするならば、他方で、グローバル化した国際社会における法と組織の在り方を問う議論の一部としての「引照基準としての公法アプローチ」も存在する。 (2)前者は機能主義がもたらす問題への批判・処方を目的とする性質上、国際組織法の基礎部分を構成する国際法の基本的な問題(例:同意の問題)への取り組みから離れる傾向にある。後者はグローバル社会における「公法」の在り方そのものを問うという性質上、その理論的軸足を具体的にどの公法(憲法・行政法)に置くのか、その基礎的要素である「権力」「権威」「強制」「拘束力」「正統性」「同意・承認」の扱いをどう考えるのかについて、大きな振れ幅が生じる傾向にある。 (3)両者の比較検討から本研究に関して現時点で指摘できるのは、機能主義においても国際組織法においても、グローバル化した社会に適合する形で国家の同意の問題にいかに取り組むのか、国家の同意の問題といかに整合性を保ちながら国際組織がその実効性を発揮し、また、その法的・政治的な責任を果たしていくのかという理論的課題である。主権国家体制や国家の同意の問題は、グローバル化した国際社会の統治の在り方と、それに対応することが求められている国際組織及び国際法の在り方にも当然関連している。その意味でも、国際組織法理論と国際法理論との接点である解釈論や権限論の再検討も同じく議論の俎上に載せられる。国際組織法研究に当っては、多様なアプローチを用いつつ、相互に関連する問題に対処するという、総合的・多層的な分析と考察が必要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の実施計画では、研究期間の後半において以下の文献調査を実施することを予定していた。
①事実上の憲章変容においては、国際社会の広範な支持・黙認という「承認」が法的に機能していたことを明らかにするため、憲法と社会(国民)、公的機関と国民、法と社会(構成員)に関する憲法学・行政学・法社会学の文献調査を実施する。ここでは、「承認」が機能することで生じる二つの効果(国際組織の内部慣習法形成における将来的・形成的効果と、違法かもしれない実行を社会的に正当化する場合における例外的・命令的効果)を区別しつつ、その機能的特徴を多角的に解明する。 ②「許可」実行とは、憲章が想定した軍事制裁システムが、安保理の公権力的かつ応答的な権限行使と国際社会の「承認」により、新たな「公私協働」的なシステムへと変容したものであること明らかにするために、「許可」実行、武力行使禁止規範及び集団安全保障に関する関連文献の調査を、上記を踏まえて実施する。
②については、①に先行する形となったが、2021年度の研究と連動する形で部分的には推進できており、2022年度に研究成果を公表する予定である。①についても、②と関連する形で研究を進めてきてはいるが、「承認」に係る国内公法理論及び国際法理論の本格的な検討が十分とはいえない状況にある。ただ、①の検討において鍵となる「公法アプロ―チの国際組織法理論への適用」については、その前提として、先行研究における国際組織法研究それ自体への視座・評価の問題を先に検討する必要が生じたため、2021年度はこれに関する研究成果を公表し、結果として①に関連する多くの示唆を得ている。したがって、全体としての進捗状況はおおむね順調に推移しているものと思料する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、国連が、国連憲章に基づく自らの機能・権限を柔軟かつ創造的に行使した結果、国連憲章に事実上の変容が生じたと思われる実態を評価するにあたり、国連の機能・権限が示す「公的機関性」「公権力性」と、国連と加盟国等のそれぞれの対応が示す「応答性」に着目するものである。そこで鍵となるのは、国連(特に安保理)と加盟国との関係が、「国際社会の公的機関」と「国際社会の構成員であり受範者(受益者)」という関係性を事実上帯びているのではないかといった問題設定であり、本年度はこの両者についての理論的な特定・分析作業を進めていく。
国連を「国際社会の公的機関」とみなせるかどうかについては、その判断基準・根拠の問題も含めて、引き続き、公法(再検討)理論に関する先行研究に依拠しつつ、行政法理論や法社会学理論も併せて確認しながら、その検討を進めていきたい。国連憲章の事実上の変容を法的に正当化するものとして、国際社会の広範な支持・黙認という「承認」の理論的な扱いについては、国際組織と同意原則の問題をどのように整合的に処理するのかという理論的課題の解決と密接に結びついているものと想定している。この問題についても、公法(再検討)理論、行政法理論、法社会学理論等の知見を活かしつつ、総合的・包括的な検討を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の全世界的影響により、本年度に購入を予定していた複数の洋書文献の刊行予定が次年度に延期となったこと、及び、購入予定の洋書文献の海外からの納入見通しが立たず、本年度中の納品が困難となったこと、以上のことから、次年度に購入することが相当となったため。
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