2021年度は,本研究の核心的な問いである,「禁反言法理による約束の強制は,いかなる正当化原理に基礎付けられ,その規律は条約・一方的宣言の法理・制度といかなる関係にあると考えられるか」の後段と密接に関わる「条約」の成立の機序の検討を進めた。 条約の成立につき,近年の国際判例では,合意の当事国の「法的に拘束される意思(intention to be legally bound)」(法的拘束意思)の有無を決定的な基準とする判断枠組が示されることがある。他方で,法的拘束意思の必要性と意義は,条約法の法典化条約であるウィーン条約法条約には明示されていない。 2021年度の本研究は,ウィーン条約法条約における条約成立の規律が,合意内容を巡る審査と各当事者の同意の存在の審査に区別されることを確認した上で,法的拘束意思がいずれの審査に位置付けられるかを検討した。法的拘束意思が合意内容の問題であれば,合意内容そのものを解釈対象として,全当事者の唯一の共通意思が探求されるのに対し,各当事者の同意の問題であれば,単独行為としての同意を解釈対象として,法的拘束意思の有無が各当事者で個別に判断されることになる。検討の結果,法典化作業・学説・判例には双方の理解のいずれにつながる要素も見出されたが,ウィーン条約法条約の規律との整合性の観点及び法的拘束意思は合意からの自由を保護するためにあるという理論的立場からは,同意を巡る審査に位置付ける方が容易に説明されることが導かれた。 残された課題は,このような法的拘束意思の有無を成立の決定的基準とする条約,さらに一方的宣言が,禁反言法理とどのような関係にあると捉えるべきかの論定である。
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