22年度は,21年度に引き続き,禁反言法理と条約制度を比較するため,条約の成立の機序の研究を進めた。現段階における研究成果は以下の通りである。 「条約」の意義は,行為=手続としての条約,手続成立の法的効果として生じる規範としての条約,そしてそれらの証拠となる文書としての条約に区別可能である。本研究で重要な検討対象となるのは行為=手続としての条約である。本研究における「条約の成立」は,条約規範を創設する手続としての条約行為が完成することを指す。 この意味の条約の「成立」の検討対象に,条約法条約(VCLT)における「締結」の規律が含まれることは論を俟たない。問題はVCLT上の「無効」の規律である。国内法学では契約の「不成立/不存在」と「無効」を区別する議論がある。しかし,VCLTにおいて,条約締結の要素と解される同意の無効は「条約の無効」の規律に含まれ,その法的帰結も峻別されない。国際法において条約の成立と有効性の峻別は確立していないようであり,無効の規律も検討対象から当然には排除されない。(ILC草案49条の註釈は,条約の無効事由を定める同規定が過去の条約に適用されない理路として,同規定は,「法的行為を行なう」要件であり,条約の「有効な締結」を妨げるものであるから,既に完成した条約行為には関わらないとする。) VCLTの規律構造に鑑みれば,条約の締結は,契約制度と異なり,申込―承諾モデルでは把握できず,「内容(ないし条約文)-同意モデル」による把握が適切である。すなわち,条約成立の機序は,条約締結能力を有する当事者が,条約として認められ得る合意内容に対して,条約拘束同意に該当する同意を付与することにより,成立するものと観念できる。条約成立の基準として,能力テスト,内容テスト,同意テストが措定されるということである。VCLTの無効事由は内容テストと同意テストに該当すると解し得る。
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