今年度は、昨年度に引き続き、構築した国際(人権)法の現象学的枠組を具体的な問題群に当てはめる業績を挙げた。 ①2020年から続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関しては、「人間的生」を全般的に問い直す現象学的枠組を通じて、人権法意識が間主観的に構築される過程を描いた( 『国際人権』33号所収論文)。 ②出入国在留管理問題については、移民や難民に対して壁を構築するグローバルノース諸国の「信念体系」を暴露し、グローバルサウスの視点から移民や難民の人間的生それ自体から「脱学習」するための視点を示した(『エトランデュテ』4号所収論文、Scholars’ Workshop 2022: Global Crisis and Global Constitutionalism での口頭報告。 ③普遍的な機関である国際人権理事会の機能については、特別手続が多様な方法を編み出してきたことで、世界生活での具体的な経験に根ざした実践知(フロネーシス)を体現していると論じた(国際人権法学会編『新国際人権法講座(国際人権法学会創立30周年記念企画):第4巻所収予定論文)。 ④北極圏における先住民族が気候変動の影響を受けることにつき、動物・自然との関係を踏まえ法的に再考した。(Yearbook of Polar Law Vol. 14所収論文)。 また本理論が依拠してきた「信念体系の一時停止」という発想につき、関連書籍の翻訳(ジャン・ダスプルモン(根岸陽太訳)『信念体系としての国際法』(信山社、2023年)を行ったうえ、その理論的な意義(「訳者解説 鏡の間に生きる国際法律家――共約不可能な他者との会話に向けて」)および、実践的な応用(「訳者補遺 ロシア・ウクライナ危機における国際法言説――『ルールに基づく国際秩序』の擁護・批判・改革」)を論じた。
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