研究課題/領域番号 |
19K13527
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西田 玲子 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任研究員 (70821130)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アファーマティブ・アクション |
研究実績の概要 |
本研究は、差別禁止や合理的配慮といった平等取扱いと、特定のマイノリティを優先的取扱うアファーマティブ・アクション(AA)が、相補的に機能する運用について検討するため、アメリカの連邦政府機関が障害のある職員を増やすために実施しているAAを研究対象とするものである。当該AAの具体的な制度内容とその効果を明らかにすることを目的としている。 研究計画の通り、①アメリカの障害者雇用とそれ以外の分野におけるAA手法の異同、②「障害」の定義と法の対象範囲に関する日米の異同、③様々な職務や職階に就くといった実質的な機会平等をもたらすAAの可能性、の3つの枠組を用いて、検討を進めている。 2019年度は①と②を中心に進め、2020年度はさらに①について掘り下げると同時に、③の検討を行なった。日本では、特に障害者雇用においてアメリカ法を対象とする比較研究をする際、アメリカの障害者雇用がどのような点で日本よりも進んでいるのか、統合された環境での雇用はいかなる規範から要請されるのか、を明らかにすることが求められる。そのため、理論的に、社会的包摂概念を用いて、日本とアメリカでそれぞれ「強み」がある領域を明らかにし、論文化した(2021年「経済分析」特集号に掲載予定)。さらに、新たな問いとして、アメリカでは競争的な労務に従事する価値をどのように捉えているのか、マイノリティの配置分布の偏りから職場内のバリアの存在を想定し、バリアを特定、除去するアプローチの妥当性と有効性は担保されているのか、中間レベル以上のポストに占める障害者の割合が目標数値に達しない要因に、労働力の供給側(学校や民間事業者)に問題はないのか、の3つを立てて、研究を進める予定である。一方、実態調査の代替手段として、メールやオンライン会議システムを用いたインタビュー調査を予定していたが、実現できていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今後の実地調査については、予定が立たないものの、本研究のテーマであるアメリカの連邦政府機関におけるAAについて、具体的な制度内容に加え、制度の成立した背景について理解が進んだと考えている。前年度、すでに障害分野に限らずジェンダー分野でも、日本においては、ほとんど先行研究がなされていない状況を把握していたため、2020年度は、期間限定でリサーチアシスタントを雇用し、共同で文献調査を進めることができた。また、2020年度は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で様々なことが停滞するなか、本研究の成果をもとに、論文を執筆するとともに、学会発表も行うことができた。2021年度には日本労働法学会の個別報告とそれに伴う学会誌への原稿執筆が予定されており、本研究を遂行し、公表の機会を作ることもできている。 そのため、本研究はおおむね順調に進展しているとしている。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、アメリカの連邦政府機関が実施しているAAの具体的な制度内容についての研究が進んだため、論文としてまとめる予定である。 本研究では、連邦政府機関に課されているAA義務の中でも、特に、ホワイトカラーの中流よりも高い給与レンジに障害者を一定割合雇用することが求められていることに注目している。現状、実地調査がどこまで進められるかは不明であるため、視点を変えて、概要で記した新たな3つの問いをもとに、障害者を含むマイノリティが、世間で得難いとされる職に就くことを促進するアメリカの社会的、制度的背景について考察することを考えている。その他、本研究の対象としているAAの特徴でもある「競争的労務への移行」に焦点を当てて、「競争」と「包摂」という視点から研究を進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に国際雑誌への論文投稿を予定していたため、英文のネイティブチェック費用がかかると想定していたが、未使用額として残ることになった。現在、米国の研究仲間が中心となって出版の計画を立てており、出版助成に採択された際には、一章分を執筆する予定である。その際に、今回のネイティブチェック費用は使用する予定である。
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