2023年度は、従前より継続的に行っている、疾病予防に係る労働安全衛生法制の検討や病気休職・復職過程における法的課題の検討に加え、不妊治療と仕事の両立や女性の健康問題に関わる法制度・法政策の検討を行った。その際、仕事との両立が困難な状況に対処するための休暇法制の充実化が重要であるとともに、こうした制度の利用を容易にするための職場環境整備が重要であること、他方、どんなに職場環境を整備したとしても、プライベートな事柄について秘匿を希望する者もいることから、こうした希望を尊重しつつ、両立が容易な制度の整備も重要であること等を確認した。 また、併せて、出産、育児・介護等、病気に限らず就労継続困難をもたらすライフイベントを広く捉え、労働者のキャリア継続を可能とするために必要な法政策の方向性を示すとともに、解釈論として、キャリア配慮義務を観念することはできないかとの試論も提起した。前者については、情報提供や周知・研修、職場環境整備を促す法政策のほか、個々の労働者のキャリアに係る意思決定を支援する法施策が必要であること、後者については、過去のキャリア権や就労価値に係る学説等も踏まえつつ、障害者に対する合理的配慮義務と類似した性格を持つものとして構想した。キャリア配慮義務の本質は、労使間での対話を促すことにあり、中途障害、病気やこれに限られない事由により、就労困難が生じた場合にキャリア継続を促す法理に理論的基盤を与えようとするものである。もっとも、上記試論の持つ意義や限界については今後更に検討を加えていくことが必要であり、この点は今後の課題としたい。
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