研究課題/領域番号 |
19K13530
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
地神 亮佑 大阪大学, 法学研究科, 准教授 (80762038)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 労災補償法 / 労災保険法 / アメリカ法 |
研究実績の概要 |
本研究のテーマはアメリカ労災補償法制における排他的救済主義の意義と射程であるところ、2019年度は、まず、アメリカにおける労災補償制度の全体像の調査を行った。具体的には、各州裁判所も引用する基本文献である"Larson's Workers' Compensation"等の文献を精読し各州に共通する理論的検討を行い、また、特にミシガン州の法制度について基本文献(Worker's Compensation in Michigan: Law and Practice)および条文・判例にあたりその全体的な内容を広く明らかにした。その成果は「労災保険研究会」で報告されたほか、労働政策研究・研修機構「労災補償保険制度の比較法的研究-ドイツ・フランス・アメリカ・イギリス法の現状からみた日本法の位置と課題」において近く公表される。同研究報告書において公表される成果は、特定のテーマ・政策にとどまらずアメリカ労災補償法制の全体的な内容を一定程度詳細に示したはじめての文献といってよく、それ自体意義を有する。その中でとりわけ本研究のテーマである排他的救済主義にかんして明らかになったのは、アメリカ労災補償法制における排他的救済主義(使用者の労災補償責任が認められる場合には被用者は使用者に対して不法行為法上の損害賠償請求ができないとする仕組み)は、被用者と使用者の「妥協」として制度の根幹をなすものであること、アメリカの労災補償制度がきわめて私的・個人的な性格を有するものであること等である。これらの点は先行研究でも簡潔に触れられてきた点ではあるが、2019年度における本研究は、これを具体的な条文・判例・行政実務等の面からより具体的に明らかにした点に意義を有すると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
もともと、2019年度は排他的救済主義について歴史的・理論的検討を行うことを予定していたが、別途研究領域が重なる労働政策研究・研修機構「労災補償保険制度の比較法的研究」のアメリカ法部分を担当することになり、本研究においても、まずは全体像および具体的な現行法の内容を先に分析することとした(上記研究の中で現地調査を行う機会もあり、本研究による現地調査は2020年度以降に持ち越すこととした)。【研究実績の概要】にあるように、2019年度はこれまでの先行研究にはなかった現行の労災補償の全体像を明らかにするという成果を得ており、当初予定していた研究の順序とは前後するものの、おおむね順調に研究が進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、ほんらい2019年度に予定していた排他的救済主義についての歴史的研究(文献研究)、正当性にかんする判例研究を中心に行う。こうした理論上の検討の裏付けをとるため、2021年1~3月頃にはミシガン州等の大学において現地調査を行うことが望ましいが、新型コロナウイルス蔓延の影響により難しい場合は、2021年度に延期する。いずれにせよ、得られた成果については日本国内の研究会等において報告を行い、学術論文として公表する。 2021年度は、各州法における排他的救済主義の取扱い(例外としての使用者に対する訴訟の可否、第三者行為災害の処理)について州法の条文・州裁判所の判例の分析を通じ検討した後、実際の取扱いや課題について、できれば8~9月にミシガン州を中心に現地調査を行う(2020年度の現地調査が実施できなかった場合、その分の調査も行う)。11月頃までに日本国内の研究会で報告し内容修正ののち、年度中に学術論文として公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究と関連する他の研究によりアメリカ現地調査を行ったことから、2019年度の現地調査を次年度以降に延期し、海外旅費を次年度に繰り越したため。2020年度に繰り越した出張を行う計画である。
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