アメリカの労災補償法における排他的救済制度(労働者が業務に起因する傷病等を被った場合、労働者は使用者等から労災補償を受けられる一方、使用者に対し民事訴訟を提起できなくなる制度)について研究する本課題において、2023年度は、いわゆるコロナ禍で実施を延期してきたアメリカ現地調査を中心に研究を進めた。得られた最大の成果は、排他的救済制度の存在により、使用者が民事訴訟により多額の損害賠償責任を負うことを避けるため、比較的被災労働者に対する労災補償支払に協力的になり得るという実態を把握したことである。実際、近年各国で課題となっている「労働者性」(ある就労者が労働法上の保護を受ける者といえるか)について、通常とは「逆」に、労災補償の場面においては、これを使用者側が積極的に肯定する(就労者側がこれを否定する)傾向にあるという。また、排他的救済制度のもとでも被災労働者側は、使用者以外の第三者に対し不法行為法上の責任を問うことが可能であり、多様な第三者に対する訴訟(製造物責任、土地所有者責任)の可否について、労働者側弁護士の模索により、かなり議論や判例の蓄積があることがわかった(以上につき、ミシガン州で労災補償を専門とする弁護士への聞き取り調査)。わが国において、労災保険と民事訴訟との関係については長く論じられ、実務上も重要な課題であるが、その検討の一助となる研究成果が得られたものと考えられる。現地調査結果はこれまでの文献調査の結果とあわせ、2024年度中には大学紀要である『阪大法学』において公表されることが予定されている。
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