最終年度においてドイツ調査に従事することができた。とりわけ最低生活保障制度の更新状況および法的統制の中核である司法制度(ドイツでは社会裁判権)の現状について理解を深めることができた。我が国の最低生活保障制度についても多方面から検討を加えることができた。より大きな視点からは、貧困問題の社会保障法的把握について課題を考究した。なかでも最低生活保障制度の中核である生活保護の目下の課題である、保護基準とそれに対する司法統制に関して、保護基準の法的位置づけをあらためて確認し、喫緊のテーマでもある若者・学生に対する保護適用上の諸論点について検討をおこなった。研究テーマとの関係では、2024年当初に発生した能登半島地震におけるように、あらためて住居ないし住まいの重要性が浮かび上がっていることが確認できた。それはすなわち、物理的な意味での居住空間の確保が前もって生存の基本条件であること、それと同時に単なるハコの提供だけではその用をなすものではなく、ハードに加えたソフトの位置づけ、なかんずく、食事、衣料、衛生といった、生活の質を支えるものとの連関、さらにはその保障のルートやメカニズムの問題-法的にはそれらを権利として行使でき、国家や行政の義務として構成できるかが課題であるが-ともつながってくることが浮き彫りになってきているといえる。そして社会保障制度との接合という観点からは、すぐにベーシックインカムに飛ぶわけではないにしても、一定の現金、ひとまずの持ち金がないことにはまともな避難生活も営めないことは明らかであって、その限りでも、災害保障と社会保障を切断して捉えるのではなく、地続きないしは重畳的に理解する視角が求められるということであり、研究期間全体を通じての課題把握の一端をなすものである。
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