刑事責任能力判断は社会的耳目を集める分野だが、裁判員裁判導入以降、刑法学説・刑事実務で最も注目が集まる分野の一つでもある。近時の刑事実務の動向は、現在の有力説の論理的整合性等に疑問を投げかけるものであり、責任非難の原理に根差すと共にその適用範囲を明らかにする理論が求められている。本研究は、有力説の判例解釈に必然性がなく、また刑事実務の背景に一定の理論的立場があることを、判例学説史の網羅的検討により明らかにし、今後の議論の前提となる枠組み・情報を明らかにする点で、学術的意義を有する。さらに、裁判例分析を含む具体的議論を提起し、裁判実務に対する内在的・批判的検討を可能にする点で社会的意義を有する。
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