研究実績の概要 |
2019度は、主に文献研究を通して知的障害者の取調べのコミュニケーションの特徴を明らかにすることに取り組んだ。 これまでの先行研究では、知的障害者のコミュニケーションの特徴について、次のことが明らかになっている。(1)知的障害者は一般的に質問形式に影響を受けやすい(Perlmanら, 1994)。例えば自由回想や包括的な質問の正答率は高いが、短く答える質問や、陳述形式の質問は、正答率が低いことが明らかにされた。また村山(2001)より、(2)質問の如何にかかわらず、迎合的に「はい」と答えてしまう傾向があること、(3)質問が理解できない場合でも、自分にわかるように質問を解釈し直して、それに答えることがあることが明らかにされた。 一方、実務レベルでは、取調べの可視化に先立ち、平成23年に東京地検等において試行された結果から、次のようなコミュニケーション特徴があった場合には知的障害によりコミュニケーション能力等に問題があると判断された。(A)話す速度が遅い、(B)質問されてから答えるまでに時間がかかる、(C)漢字が読めない(簡単な漢字しか読めない)、(D)返答が単語や2、3語に限られ長い文章で話せない、(E)質問の中の言葉をおうむ返しで使う、(F)『なぜ』、『どうして』という質問が理解できず、混乱したり戸惑った様子を見せる、などである。 以上より、次のことが期待できる。文献研究の結果から、被疑者となった知的障害者に対する適切な質問方法を構築することが可能と考えられる。また実務における取り組みから、知的障害者の特徴的な応答が明らかになったと考えられる。来年度以降は、質問と応答とを組み込んだ、被疑者となった知的障害者に対するコミュニケーションデザインの構築を目指す。
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