研究課題/領域番号 |
19K13540
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
牧 耕太郎 上智大学, 法学部, 研究員 (70802461)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 犯罪の継続 / 継続犯・状態犯 / 犯罪の終了 |
研究実績の概要 |
2019年度においては,監禁罪(刑法220条)における犯罪継続についての研究を行った。ここでは,継続犯の定義とされる「構成要件該当性の継続」の意義について,実行行為の側面と構成要件的結果の側面の両面からの検討が必要であることを前提として,行為と結果のそれぞれについて個別に検討を行った。 監禁罪は継続犯の典型とされるが,いかなる立場であれ構成要件該当結果の継続は必要であると考えられている。もっとも,そこでは結果を1つと見るのか,時々刻々と複数の結果が積み上がっているのかという理解の対立があるものの,これまで監禁罪において承継的共犯の可否が問題となってきたことから考えても,複数の結果が積み上がっていっているものと考えるべきであるという結論に至った。 他方,行為についても,これを1つと見るのか,それとも複数を観念するのかという理解の対立があり得る。この点,行為を連続した1つのものと見ることは,評価を優先することで事実的基礎が弱まってしまい,必ずしも妥当とはいえない。また,不作為による監禁罪もあり得ることから,行為を1つとして捉えることには難があり,複数の行為が積み重なっているものと考えるのが一貫していることとなる。 承継的共犯については,否定説からは上記の結論は異論なく受け入れられるであろうし,有力な限定肯定説とも整合する。また,このことから,犯罪の継続の問題と承継的共犯の可否というのは,関連はすれども,必然的に結びつく議論ではないということも明らかになった。 現在,当実績の公刊準備を進めているところであり,2020年度に公刊を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初,2019年度においては,複数の犯罪類型について検討を行うことを予定していた。しかしながら,典型例とされる監禁罪においては,これまでの議論が保護法益論に向けられてきたこともあり,犯罪の継続という側面からの議論がほとんど行われてきていなかった。そのため,監禁罪だけでも基礎的な理解を検討するのにかなりの時間を要してしまった。 また,年度中頃から住居等侵入罪の研究に着手しているが,こちらもドイツの状況等を調査しているうちに,日本ではほとんど問題とされてこなかった「不真正不作為犯による住居等侵入罪」の可否という問題が立ち上がってきた。これはドイツでは可罰性を肯定するのが通説的であるとされるが,その根拠の正確な理解をするための調査がなお必要な状態にある。この問題は,犯罪の継続の根拠に関わる可能性があるため,なおざりにできないものと思われる。 本研究は最終的には総論の議論へフィードバックをすることが目的であるところ,なお各論的な議論が思うように進んでいないため,「やや遅れている」との判断をせざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終的な目的は,各論で積み上げた犯罪の継続についての知見を総論分野へフィードバックさせ,犯罪の継続についての一般的な基礎を問うものである。そこで現在の状況を見てみると,すでに示したように遅れが認められる上,世界的にも新型コロナウイルス感染症が広がり,海外渡航などが困難な状況にある。当初はドイツへ資料収集に行くことも予定していたところであるが,これも見直さなければならない。 他方で,本研究の手法は,文献研究であり,必要十分な文献を入手できるかこそが要点である。そこで,リポジトリなどを活用することで,可能な限りの文献を収集することで対応していきたいと考えている。 また,研究対象についても,申請当初は新たに5類型ほどの犯罪類型を検討の対象とすることを予定していたが,これについても縮小する必要があるように思われる。もっとも,本研究課題については,申請以前に所持罪と不真正不作為犯による死体遺棄罪の検討を行っていることから,これを織り込む形で総論分野へフィードバックをさせることを優先したい。その後,余力などが残っていれば,この総論分野へのフィードバックの妥当性の検証として,例えば未遂犯における犯罪の継続の可否などのような課題に取り組んでいきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
まず,物品費についてであるが,研究の遅れによる物品購入が影響を与えている。また,旅費については,当初年度末でのドイツへの渡航を検討していたものの,新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延により,渡航を断念したため,旅費の支出ができなかった。 2020年度においては,研究の遅れを多少なりとも取り戻すことを目指し,それに合わせて必要な資料等を揃えていく予定である。また,2020年度においては,2019年度の研究成果の公表をするための費用を支弁する予定である。旅費についても,今後の状況を見ながらとなるが,渡航に支障が出ない状況になった状態で,当初予定していたドイツへの資料収集等のための渡航を行いたいと考えている。
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