研究課題/領域番号 |
19K13540
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
牧 耕太郎 上智大学, 法学部, 研究員 (70802461)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 犯罪の継続・終了 / 状態犯 / 継続犯 / 盗品等保管罪 |
研究実績の概要 |
本年度においては,刑法256条2項に規定された盗品等保管罪について,その継続が認められるかを検討した。 本罪は,最決昭和50年6月12日刑集29巻6号365頁において,保管開始時点では盗品との認識がなくとも,その後に知情すればその知情時に既遂となるとされたが,この点について学説は批判的な見解も有力であった。 本研究では,本決定及びこれに対する学説の反応を再度洗い出して,同罪が継続するのかどうかを検討した。その中で,従来は盗品等の占有の移転という部分に議論の焦点があったという知見を得た上で,問題はそこに止まらず,保管者への委託の有無という部分の問題があることも指摘した。もし,占有移転に重きを置いた場合,盗品等譲受け罪との差異が曖昧化してしまうおそれがあり,むしろ保管の委託にこそ重点を置くべきだと解すべきだという結論に至った。そして,この占有移転が保管の委託に基礎づけられている場合には,当該占有保持(保管)行為中はその委託の趣旨が及んでいるのであるから,保管が継続すると理解するのが妥当であると考えられる。 そうすると,保管中に当該の保管物が盗品であることを知情したとしても,その後の保管がなお本犯のために保管をすることを認識・認容するものとなるのであれば,やはり保管罪は地上の時点で既遂となると解するのが妥当であるという結論に至った。 このような本研究を通じて,占有移転時には,保管ではなく譲受けの意思であった者が中途で知情した場合にどうなるかという問題が残されることとなるが,本犯のための占有保持ではない以上,占有離脱物横領罪を検討すべきに止まるのではないかと予測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は,周知のとおり,新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により,大学への入構が禁じられたりするなど,研究資料へのアクセスが極めて困難となる事態に至った。その後,大学等関係機関の尽力により,アクセス可能性がある程度回復した後も,他の業務のオンライン化などの強い影響を受け,それに多くの時間を割かれることとなり,研究のためのエフォートが大幅に減少した。 さらに,現在研究を進めている住居等侵入罪については,「不作為による住居等侵入罪」について検討を進め,これを否定する理由はないのではないかという仮説を持ち始めているが,不退去罪との整合性等,なお検討すべき事項が多くあり,進捗としては芳しくない。 各論の議論を総論へフィードバックさせることを旨とする本研究としては,対立のはっきりとした本罪の検討を避けるべきではないと考えられるし,また犯罪の継続を肯定すべきかどうかの1つの重要な分水嶺となる犯罪であり,この点を保留して検討を進めるべきではないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まずは,住居等侵入罪の検討を早期に目途をつけることが重要だと思われる。そこで,一度,住居等侵入罪における不作為犯処罰の可能性だけを,何らかの形で研究報告として行い,それを踏まえた上で,本研究に反映させることが妥当だと思われる。 これが完了次第,総論へのフィードバックを行うこととする。これまで得てきた知見を集約し,それをこれまでの「継続犯」・「状態犯」の議論とどのように重なるのか,さらには母国法であるところのドイツ刑法学上の知見をも踏まえた上で,1つのまとめを行いたい。 なお,ドイツ刑法学における学説状況の把握も,現下の世界情勢を踏まえると,詳細にわたるものではなく,ある程度,要点を押さえた大掴みなもので満足せざるを得ないのではないかと考えている。もっとも,多くの基本的文献については,わが国においても入手がさほど困難ではなく,その意味で精度が極めて低いということもないのではないかと考えている。 また,研究成果の公刊も,やや優先順位を落とし,まずは研究の一応の完成を目指したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度の予定を変更し,ドイツへの資料収集・調査出張を検討していた分が,今年度も渡航できずに残っている。 2021年度においても,状況の変化はあまり望めないことを考えると,当費用を,渡航に替わる資料の収集費用に当てることが妥当だと考える。 また,昨今の状況に鑑みると,持ち運びの可能な軽量型のデバイスで,研究資料の管理や研究成果の公表のための論文執筆などを可能にすることが望ましいとも考えている。
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