本年度は、かねてより検討を続けていた住居侵入罪の犯罪継続性について、論文の執筆・公表を行った。ここでは、不退去罪の存在やその成立要素である住居権者の退去要求という要件をきっかけにした上で、さらに立法史まで踏まえることで、住居侵入罪における「侵入」概念は動態的に把握されるべきであり、通説とは異なって、侵入した後の滞留までは含まないと解されると示したところである。 また、これとは別に、ドイツ刑法学における犯罪の終了概念の機能的な検討を行った。これについては、まだ論文を公表できていないが、近いうちに公刊する予定である。その内容をここで少し明らかにしておくと、ドイツ刑法学においては、終了概念によって、いくつかの法的問題点を統一的に解決しようとする姿勢が見受けられる。その中にはわが国でも同じように考えられてきたようなものも含まれているが、わが国ではそれほど重要なものと考えられていないものも存在する。典型的には、財産犯におけるそれである。例えばドイツ刑法が用意する強盗的窃盗では窃盗既遂後の終了概念が、同罪の成立限界を決める上で極めて重要な役割を果たしている。他方、わが国においては、これに類似する事後強盗罪の成立においては、このように犯罪の終了を問題とすることなしに「窃盗の機会」ということを問題とする。 このようにわが国では、これまで終了概念というものは、公訴時効や共犯関与といった極めて限定された場面でのみ使われてきたわけであるが、ドイツのように体系的な問題解決に役立つ概念とはいいがたかったように思われる。同時に、わが国での理論も相当に進歩を遂げ、ただ体系的関心からその議論状況を大きく変えるというようなことは妥当とも思われず、その理論的意義は相当小さいのではないか、という帰結に至った。
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