研究課題/領域番号 |
19K13541
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研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
小島 秀夫 大東文化大学, 法学部, 教授 (10837884)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 言語行為 / 義務論理 / 因果関係 / 故意 / 論理学 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、狭義の共犯から共謀共同正犯への格上げに対する問題意識に基づいて、共謀共同正犯の成立範囲を限界づけることが目的である。具体的には、①法哲学的考察、とりわけ言語行為論に基づいて「共謀」の本質を明らかにすること、②ドイツ刑法典30条2項に規定されている申合せ罪について比較法的考察を加えること、③以上の検討を踏まえて、可罰的な共謀行為の規範的基準を提示することを試みている。2019年度は、このうち①の作業を実施した。 研究代表者は、言語行為論に関する資料を収集し、検討する中で、日常言語を対象とする言語行為論の萌芽が新しい論理学(現代の述語論理学)にあることを捉えた。そこで、2019年8月下旬、ドイツ・ミュンヘン大学を拠点に約2週間滞在し、研究協力者であるミュンヘン大学教授やトリーア大学教授のアドバイスも得ながら、言語哲学や論理学に関する文献を収集した。その成果として、いまだ日本では法学者向けに書かれた論理学の入門書がないことも踏まえ、ドイツ語圏内の法学者向けに書かれた『論理学とその使用法入門』(2015年)の内容を翻訳紹介した。本書では、論理学の観点から、刑法における因果関係の認定や概括的故意事例が批判的に検討されている。 以上の作業を通じて、(a)現代の哲学が言語をめぐる問題に注目していること、(b)すでにドイツ刑法学では論理学の重要性が指摘されていることが明らかになった。(a)については、言語行為論を一般的に捉え直したコミュニケーション的行為の理論に基づいて言語を捉える見解や、従来の言語行為論を批判的に考察した上で身体的行為として言語を捉える見解などが主張されている。(b)については、コミュニケーションとしての刑法解釈論が展開されており、故意のみならず、過失の共同正犯についても検討が加えられている。現在、これらの文献を踏まえた論文執筆を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
言語行為論の系譜をたどり、その前提となる基礎知識としての論理学について、とりわけ法学者向けに書かれた入門書の内容を2回にわたって詳細に紹介することができた。また、言語行為論に影響を受けたその後の言語哲学における議論を概観し、言語の行為的性格、ひいては共謀の行為的性格を見いだしつつある。 もっとも、そのような言語行為論に基づく「共謀」概念が、共犯性・正犯性・故意の問題にどのように影響するかを示す必要があるだろう。また、2020年3月に研究会での報告を計画していたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響により、延期せざるを得なくなった。 こうした課題が残されているものの、これまでの進捗状況は、当初の研究計画通り進んでいる。そのため、現在までの進捗状況については「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、これまでの文献収集を基に、共謀の行為性に関する論文を完成させたい。また、論文の作成と並行して、申合せ罪に関する文献収集および検討(上記研究実績の概要②)を行う。 もっとも、新型コロナウィルス感染拡大の終息が見通せず、行動制限が続くと予想されることから、文献収集は一定期間困難を極める。そこで、自宅から使用できるデータベースを利用して、可能な限り文献収集に努める。また、当初は2020年8月にドイツ・ミュンヘン大学を訪問し、申合せ罪に関する文献収集を行う計画であったが、海外渡航制限が長期化すると見られることから、現地訪問については2020年度末に延期せざるを得ない。すでに先方と調整を進めており、日程の変更につき許可をもらうことができた。全体としては、研究に遅れが生じないものと思われる。 研究を進めていく中で、「共謀」概念が共謀共同正犯のみならず、教唆犯や幇助犯においても、いわゆる連鎖的共犯(間接教唆や間接幇助など)の可罰性を検討する際、共同性の要件として問題になるのではないか、との考えに至った。間接幇助の構造については、すでに脱稿した『刑法判例百選Ⅰ総論 第8版』の担当部分でも軽く言及したが、その点についても今後の論文を通じて深く検討していきたい。
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