最終年度は、共謀共同正犯における共謀概念を比較法的に考察し、行為の手段や方法、被害者などを特定せずに犯行の内容について包括的な合意を形成する包括的共謀が共謀共同正犯の成立を根拠づけうるか検討した。 ドイツ刑法典30条2項では申合せ罪(重罪合意罪)が規定されており、申合せ行為として認められるためには、計画された行為の内容が十分に具体化されていなければならないと解されている。すなわち、行為の詳細や被害者を特定する必要はないものの、不法の規模について大まかな合意が必要であるとされている。ドイツ刑法典176条b第2項における児童に対する性的虐待に関する申合せ罪も、同様の理解に基づいている。また、オーストリア刑法典277条1項では重罪共謀罪が規定されており、本罪でも申合せの対象となる行為内容の具体化が要求されているが、通説によれば、具体化の程度について、犯行場所の他、大まかな犯行日時や被害者を、少なくとも「次の通行人」や「現金輸送車」などといった程度に特定している必要があると解されており、注目に値する。なお、ドイツやオーストリアにおいて、これらの犯罪がいずれも未必の故意で足りるとされている点にも留意すべきである。 以上の検討と共謀概念の言語哲学的考察を合わせると、各関与者が、一定の無価値な結果の実現に向けて相互に拘束しあう、ある種の連帯関係ないしコミュニケーション関係を構築し、無価値な結果を生じさせる現実的危険性を認識している場合には、共謀行為のみ関わった者も、直接行為者に実行の着手が認められる限り、共同正犯として処罰されうると考えられる。包括的共謀が問題となる事案では、関与者間でこうしたコミュニケーション関係が継続されているかどうかを慎重に検討すべきだろう。 最終年度の研究成果については、明治学院大学法学研究114号にて公表し、アレキパ弁護士会(ペルー)主催の国際会議でも報告した。
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