我が国の共謀罪(テロ等準備罪)における「共謀」は、共同正犯の成立要件としての共謀と同義のものと一般的に理解されているが、共同正犯における共謀がそもそも多義的な概念である。 共同正犯の共謀の中には、共犯者の間で役割分担をし、それぞれの行為の相互調整を可能にする意思疎通として理解されるものもあるが、これは、必ずしも緊密な人的関係や意思疎通を前提にしない。他方で、そうした緊密な関係を前提にし、心理的な拘束力を基礎づけるような共謀もあり得る。いわゆる「実行共同正犯」の場合は、前者の意味で理解される共謀で足りるが、「共謀共同正犯」の場合は、原則として、後者の意味で理解される共謀が求められるべきと考える。もっとも、裁判実務における共謀共同正犯はこれより射程の広いものであるため、共謀共同正犯には更なる類型が存在すると推測できるが、その実体の解明は今後の検討課題である。 実行共同正犯における共謀は、共犯者らの実行行為を調整する機能を持つものに過ぎず、共同正犯性の根拠は「実行行為の担当」にある。これに対して、共謀共同正犯が正犯として処罰される根拠は共謀そのものにあるはずなので、実行行為の担当に比肩するほどの性質が共謀に見出されなければならない。以上の知見からテロ等準備罪を見ると、本罪における共謀も、それ自体が処罰を基礎づけ得るだけの実体を伴うものであるから、それは共謀共同正犯における共謀に近い概念として理解される必要があることになる。もっとも、前述のように、共謀共同正犯の共謀も多義的である可能性があるため、テロ等準備罪の成立には心理的拘束力を基礎づけるような共謀が求められるのか、そこまでには至らない程度の共謀でも足りるのか(そもそもそれはどういった内容の共謀なのか)を改めて検討し直す必要もある。
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