研究課題/領域番号 |
19K13547
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
斎藤 司 龍谷大学, 法学部, 教授 (20432784)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 刑事立法 / 強制処分法定主義 / 法律留保の原則 / 本質性理論 / 規律密度 / 立法技術 |
研究実績の概要 |
本年度においては、捜査処分の必要性を支える原理である「強制処分法定主義」、そして「法律の留保原則」の趣旨とその内容を踏まえ、それぞれの原理から導かれる法定の要件・手続、令状審査などの特別の手続の有無やその規律密度の類型的差異について検討した。 強制処分法定主義が妥当する強制処分については、刑訴法上の明文の要件・手続により規律することが要求される。そして、その規律密度としては、捜査機関や裁判官が、被疑者・被告人に不利益な解釈や類推適用を許さない程度のものであることが要求されると解すべきと考えた。なぜなら、強制処分として法定された要件・手続は、立法府がそれ以外の機関に対する自己決定(裁量に基づく判断)を禁じ、自身の自己決定義務に基づいて法定した者と理解すべきと考えるからである。このように刑訴法上の「強制処分」にあたる法的規律の基本思想としては、現場における行政機関、さらには司法機関による裁量を封じ込めることができるかという点が1つの柱として設定されるべきである。 これに対し、「法律の留保原則」に基づく法的規律の基本思想としては、その法的規律の目的が複数想定されるため、それぞれに応じたものが設定されるといえる。第1に考えられるのが、権限濫用を防止するための法的規律である。この場合、現場における行政機関による判断を一定以上認めることが前提となり、その濫用を防止をするための要件、さらには手続設定が必要となる。第2に、場合によっては強制処分あるいはこれに近い権利侵害などを惹起し得るためこれを予防するための要件や手続設定が必要となる場合である。 以上のように、捜査に対する法的規律を支える基本思想について、統合的観点だけでなく、いくつかの類型ごとに基本思想を検討すべきであること、そしてその方向性を具体できたことが本年度の研究実績である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の前半部分は、おおむね予定通り、本科研費申請後に公刊されたいくつかの新しい研究成果を検討しながら、研究代表者の従来の研究成果をブラッシュアップしその成果を公開することに力を注いだ。そして、その研究成果は、上述の研究実績の概要のとおりであるが、捜査に対する法的規律を支える基本思想について、強制処分と任意処分に分類し、さらに後者についてもその趣旨や目的に沿って分類することができるとの発想に至った。 次にこのような観点から、日本における唯一の情報取得捜査の立法例である通信傍受法を支える基本思想や立法技術について検討した。同立法については、犯罪発生前の捜査の可否や憲法35条との関係が注目されてきたが、他方で情報保管・管理・削除・告知などの規定を支える基本思想や論理についてはそれほど検討されてこなかった。上述の観点からすれば、これらの規定は、通信傍受の強制処分的性格そのものというより、任意処分としての強制処分に至らないようにするための予防的性格を有する者との分析も可能であると思われる。 これらの作業と並行して、日本の刑事立法の立法担当者や経験者へのインタビュー調査を行うためにその質問項目や調査方法、整理方法についての予備調査を進める予定であった。もっとも、これらの作業を開始したところで、新型コロナウイルスの関係で予定していた東京調査や研究会を行うことが困難となり、十分に行うことができなかった。 以上の理由から、研究代表者としては、2019年度の研究の進捗状況について、「おおむね順調に進展している」との自己評価をするに至った。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、2019年度で十分達成することができなかった日本における刑事立法技術とこれを支える論理や基本思想を言語化するためのインタビュー調査、そしてその予備的調査を行う予定である。もっとも、新型コロナウイルスの影響で、上記のことを目的とする東京調査や研究会は、しばらくの間見送りとすることも考えられる。 また、2020年度は、捜査活動に対する詳細な法的規律を行い、活発な立法作業を展開しているドイツにおける立法担当者・経験者に対するインタビュー調査も行うことを予定している。もっとも、これらの活動についても、新型コロナウイルスの影響で、現地に向かっての調査は困難となることが予想される。 これらの影響のため、現時点では、オンライン会議ツールを用いたインタビュー調査を行うことも予定している。もっとも、これらのインタビューを行うためには対象者との事前のコミュニケーションの構築なども重要となるため、ドイツにおける研究者などとのやり取りを充実させる必要となるだろう。予定を超えて時間がかかる可能性もあるが、最大限の工夫を講じることにしたい。また、インタビュー調査の問題点との関係で、より文献調査にも力を注ぐことにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの発生及びその関係での学内の対応のため、2月から3月の研究活動、特に東京及びドイツにおけるインタビュー調査や研究会開催に用いるための研究費(旅費や謝礼など)を用いることができなかった。 2020年度も新型コロナウイルスの影響が継続することが予測されるため、オンライン会議ツールなどを用いたインタビュー調査や研究会を開催することが予測され、このような研究活動によって直ちに当該助成金の額を解消することは困難かもしれないが、オンライン会議を充実するために必要な機器などの整備、インタビュー調査の対象人数の増加、オンライン研究会やインタビュー調査をしっかり行うための事前調査などについての費用や謝礼などに用いるなどして助成金に合わせた研究を行う予定である。
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