研究課題/領域番号 |
19K13547
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
斎藤 司 龍谷大学, 法学部, 教授 (20432784)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 捜査の規律方法 / 強制処分法定主義 / 法律留保の原則 / 本質性理論 / 規律密度 / 立法技術 / 令状主義 / 裁判官留保 |
研究実績の概要 |
日本にいう強制処分だけでなく任意処分に対する法的規律の両者を検討するため、その根拠論と規律の具体的内容について研究した。 具体的には、日本にいう強制処分より幅広い捜査処分について、詳細な法的規律を用意するドイツ刑事訴訟法の具体的な規律内容とこれを支える論理、さらにはドイツにおける議論を内在的理解するための研究を行った。 ドイツでは、権利侵害処分など捜査機関の裁量に委ねるべきでない処分について、国会の立法による統制、さらには裁判官によるコントロールにおくという発想を採用している。この論理自体は、現在の日本と同様であるが、ドイツにおける刑訴法や判例、さらには通説の論理を内在的に検討すると、日本の基本的な考え方が重要な権利侵害に限り立法すべき対象と考えてきたこと、そして裁判官による審査に委ねるだけで足りず、裁判官による捜査範囲の範囲の限定を要求するという非常に厳格なルールを設けてきたことが分かった。 以上のことを踏まえると、ドイツは日本より捜査について立法による広範囲な規律や裁判官による(日本の令状主義よりは緩やかな)コントロールという構造を有していることが分かる。その構造は、日本の現状を考慮すると、直ちに役立つというわけではないかが、GPS監視捜査を契機として任意処分についても立法による規律が必要であり、また捜査処分について令状主義以外の多様な規律が有用との理解が有力化しつつある日本においては、ドイツのような規律方法が非常に重要な意味があるとの考えに至っている。 これに加えて、現在、令状主義以外の捜査手法の規律方法についても世界の動向や他の法律領域や他の領域について研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、ドイツにおける捜査に対する法的規律の在り方やこれを支える基本思想を明らかにすることが主な予定であった。具体的には、文献調査に加えて、ドイツに赴き主要な研究者や立法担当者にインタビュー調査を行う予定であった。もっとも、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、上記調査は断念せざるを得なかった。 このような状況を踏まえ、2020年度は、まずはドイツにおける理論的動向を明らかにするためドイツのコンメンタールや判例といった文献調査を徹底的に行い、また他の日本人のドイツ刑訴法研究者との研究作業でドイツ刑訴法の捜査法部分の条文と判例、通説の徹底的な整理・分析も行った。特に後者は、日本でも個別の捜査手法については一定の研究が行われてきたところ、捜査法の総論、さらに個別の捜査手法との関係について十分研究が進められてこなかったことに鑑みれば、十分な意味があったと考えられる。この作業は2021年度も継続して行う体制が整っている。 他方で、ドイツ人研究者や立法担当者へのインタビューを十分に行うことはできなかった。数名の研究者とのやり取りを行うことができたが、その内容はこれまでの文献調査の内容を超えるものではなかったため、この点に関する本格的な研究を行うことができなかったことは、2020年度の進捗との関係では問題点であったと認識している。 もっとも、今後の捜査法を検討するうえで刑訴法だけでなく、インターネット・サイバー関係の法領域、国際法、行政法などさまざまな法領域との協働が必須であるところ、これに当たる複数の学会や研究会での報告や議論を行うことができ、今後の協働体制も構築できている。 以上を踏まえて、2020年度の進捗状況は上記の表記のような内容にいたった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究の推進については、まずドイツ国内における捜査法の総論及び各論的な規律の内容、そしてこれを支える基本思想を言語化するにあたり、ドイツ人研究者と立法担当者に対する本格的な聞き取り調査を行うことが第1の目標となる。もっとも、新型コロナウイルス感染状況との関係で、2021年度もドイツに直接赴くことは困難であり、また調査対象予定者も非常に多忙であることも踏まえて、研究を推進する必要がある。このことも考慮して、オンライン会議・オンライン研究会などを経て、上記調査を行うことを予定している。また、この目標との関係で、日本人のドイツ法研究者ともより強い協力関係を構築している予定である。すでにドイツ刑訴法研究者とは、ドイツ捜査法の客観的な分析を目指す研究会を数度開催しているところであるが、さらに幅を広げ、現在ドイツへ留学している法学者とも協力する予定である。 第2の目標としては、日本国内における捜査法の立法技術や基本的な論理について、立法担当者へのインタビューを実行することである。この点についても、新型コロナウイルスの影響等等により十分推進することができていない状況であるが、オンライン会議や研究会を開催することにより、これを進めることにしたい。もっと、予備的な調査などによれば、文献調査を超える内容が獲得できるか不明確な状況にもある。 2021年度は、研究の最終年度に当たるため、以上を踏まえた、捜査法の規律内容とこれを支える基本思想の概要を示す必要がある。特に最高裁判例も含め、インターネット上の捜査に関する状況の進展が急速であるため、他の法領域の学者だけでなく、さらに他分野との協働も必要であると考えている。この点については、これに当たる学会や研究会などにおいて構築できた協働体制も積極的に活用したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染防止の拡大、これをうけた勤務大学の方針を受け、外国や東京等への出張、さらにはインタビュー調査がほぼ全面的に禁止されることになった。そのため、予定していたドイツや東京での調査を行うことができず、「次年度使用額」が発生するに至った。オンライン会議や研究会の設備強化や計画していた調査対象者の拡大等により、この助成額を使用する予定である。
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