研究課題/領域番号 |
19K13549
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
山下 裕樹 神戸学院大学, 法学部, 講師 (20817150)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 犯罪の終了時期 / 不作為犯 / 危険犯 / 抽象的危険犯 / 死体遺棄罪 / 継続犯 / 状態犯 |
研究実績の概要 |
平成31年度(令和元年度)は、犯罪の終了時期に関する一般論について、①我が国の判例の調査・分析、②我が国およびドイツの学説の調査・分析を中心に行なった。①について、判例は、結果犯の場合には、刑訴法253条1項における「犯罪行為」には構成要件的結果も含まれると判示しており(最決昭和63年2月29日)、構成要件的結果の発生時を犯罪の終了時期だと解していると言える。しかし、結果犯以外の犯罪類型については、判例は、「犯罪行為が終つた時」と言えるか否かの判断しかしていない(例えば、最決平成18年12月13日)。それゆえ、判例が、不作為犯や危険犯も含めた他の犯罪類型の場合について、結果犯と同様に犯罪の終了時期を画しているのかは明らかではない。 ②について、我が国の学説は、伝統的には、犯罪の終了時期につき、即成犯か状態犯か継続犯かの区別を重要視してきた。しかし、近年では、犯罪の終了時期も構成要件解釈の問題であり、そのような区別は犯罪の終了時期を画するにあたり決定的でないとされ、法益侵害的作用の継続や法益侵害の質的・量的拡大を重視する構成要件該当結果に着目する見解が有力とされ、この考え方は危険犯にも妥当するとされている。ドイツでも、犯罪の終了時期の問題は構成要件解釈の問題とされ、危険犯の場合、危険の消滅・除去あるいは危険の損害への転嫁でもって、犯罪行為が終了すると解されている。学説の考え方からすれば、不作為による危険犯の犯罪の終了時期が到来しない理由は、不作為犯が継続犯だからではなく、作為義務を履行しないことによる危険の除去がないからだということになる。もっとも、そうであるならば、作為犯の場合にも、危険の継続や危険の実害への転嫁のないことを理由に、犯罪の終了時期は到来しないと解すべきと思われるが、少なくとも、判例はそのように解していない(大阪地裁判平成25年3月22日)点で疑問が残る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
学説状況の調査・分析に関して、2019年末からの新型コロナウイルス感染症による一連の影響により、当初2月頃に予定していたドイツでのインタビュー等の研究調査・ドイツの研究者との意見交換および資料収集を遂行することができなくなってしまったため、ドイツの学説状況の調査・分析が、予定していたよりも不十分となってしまっている。さらに、当該感染症への対応・対策の一環として、国内の大学や研究機関の図書館等の施設閉鎖および使用制限もあり、研究遂行中に追加で必要となった資料の収集が困難となってしまい、我が国の判例および学説の調査・分析も、予定よりも不十分とならざるをえなかった。
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今後の研究の推進方策 |
①犯罪の終了時期の一般論に関する研究を、特にドイツの判例および学説の調査・整理・分析を中心に継続して行なう。とりわけ、危険の転嫁や危険の実害化のない限り、危険犯の犯罪の終了時期は到来しないとする考え方が適切な物であるのかを中心に検討する。加えて、危険犯に関し、作為犯と不作為犯で犯罪の終了時期に対する取り扱いが異なってもよいのかという点について、我が国およびドイツの判例・学説の調査・分析を行なう。 ②死体遺棄罪の解釈論を再検討するが、特に保護法益について、我が国およびドイツの判例・学説を調査・分析する。死体遺棄罪の保護法益を個人的法益のように捉える見解が存在することから、危険犯の犯罪の終了時期の明確化という観点も含め、宗教感情という社会的法益を死体遺棄罪の保護法益と考える通説的見解と比して、いずれの見解が優れているかを検討する。 なお、文献の調査・分析に係る資料収集に際しては、新型コロナウイルス感染症の影響が考えられる。日本で入手困難なドイツ語文献に関しては、当該感染症による一連の影響が落ち着いた時点で、ドイツへ現地調査することを考えているが、影響が続くようであれば、当該感染症対策として実施されているデータベースの無償提供を利用するか、ドイツの研究者の協力を得て入手するよう努める。また、ドイツの研究者との意見交換は、当該感染症の影響が続く場合には、オンライン会議システムを用いるなどして実施する。国内文献の収集に関しても、当該感染症の影響による各大学や他の研究機関の図書館の閉鎖が今後も継続されることが考えられるが、当該感染症対策として実施されているデータベースの無償提供等を利用しながら、可能な限り多くの文献を収集するよう努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、予定していたドイツでの現地調査を断念せざるをえなくなったため、次年度使用額が生じた。令和二年度にドイツでの現地調査が可能となれば、その際の経費として使用する予定である。あるいは、新型コロナウイルスの影響が継続し、ドイツでの現地調査が困難な場合には、ドイツ語文献のデータベースの契約費用に当てることにする
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