研究課題/領域番号 |
19K13552
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
橋本 伸 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (20803703)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 利益吐き出し / 英米法 |
研究実績の概要 |
本年度は、第1に、前年度積み残しである英米の利益吐き出しに関する理論的根拠についての従前の判例・学説についての研究成果の公表に取り組みつつ、第2に、従前の理論的根拠とは大きく異なるHanoch Daganの見解を検討することに取り組んだ。その実績は以下の通りである。
第1の点については、橋本伸「「利益吐き出し」原状回復救済に関する理論的考察 (4)(5)」北大法学論集71巻3号、5号として公表した。その概要については、前年度の研究実績の概要に譲る。
第2の点については、Daganの不当利得の著書を精読し、以下の示唆を得た。すなわち、(1)リアリストであるDaganは、法においては社会的諸価値(具体的には、①効用、②支配、③分かち合い)が反映されているとの考え方に立脚し、不当利得法上の多様な金銭救済の違いもこのような点から説明していること、(2)Daganは、利益吐き出しが認めらる資源としては、人との繋がりが強いもの(具体的には、名誉、プライバシー、身体部位など)のみを考えていることである。また(3)利益吐き出しの理論的根拠としては、②支配(ないし自律性)に求められているが、ここで支配の意味につき、Daganは、Calabresi & Melamedのプロパティルールの意味ーー換言すると、権原保有者の同意を得ることなしに、他人が権利を使用することを認めない点で、権原保有者の自律的な意思決定を尊重するという意味ーーで捉えており、このように解することにより、利益吐き出しは、プロパティルールの意味での特定履行救済として正当化されることになる(ここでは、金銭による特定履行という発想が採用されていると見ることができることも付言しておく)。(4)以上のDaganの見解は、「利益吐き出しの多元的根拠づけ」という本研究の構想において、理論的根拠の第3の類型として、用いることができると解される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度の成果の公表については達成できたものの、新型コロナの影響により、オンデマンド教材の作成など授業準備に大幅に時間が割かれ、研究する時間が減ったため、Daganの研究は、不当利得の著作にとどまっており、そのほかの関連業績について十分に検討することができなかったことから、上記のように判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度十分に検討できなかったDaganの不当利得及びその周辺に関連する業績について検討し、早期に、彼の利益吐き出しの理論的根拠についてまとめ、成果を公表する。その上で、本研究でこれまで示してきた、利益吐き出しの多元的な根拠づけという視角から、英米の従来の利益吐き出しの要件・効果を再構成し直すことにより、理論的根拠が個別の要件・効果の解釈にどのよう影響するかについて指針を示し、我が国への示唆とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
発注していた図書の納入が遅れたこと、及び本年度に発売予定となっていた外国文献の発売が遅れたことによるものであり、次年度に納入及び発売され次第、その部分に使用することとしたい。
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