研究課題/領域番号 |
19K13552
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
橋本 伸 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (20803703)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 利益吐き出し / Hanoch Dagan / 不当利得 / 不法行為 / 契約違反 / 信認義務違反 |
研究実績の概要 |
本年度は、第1に、前年度の積み残しとなっていたHanoch Daganの利益吐き出しの理論的根拠を解明することを試み、第2に、第1とも関連するが、Daganの見解が、人格的な物の譲渡可能性を否定(ないし一部制限)しつつ、それらが無断で他人に利用された場合には利益吐き出しを認めることを矛盾なく説明することが可能かについて検討した。
第1の点については、橋本伸「『利益吐き出し』原状回復救済に関する理論的考察 (6)ー-ヒト由来物質の無断利用問題を機縁として」北大法学論集72巻6号(2022)125-179頁で成果として公表した。この点は、前年度の研究実績に譲る。
第2の点については、法と経済学で用いられるCalabresi=Melamedの分析枠組みのうち、①プロパティルール(Daganの利益吐き出しはこの系譜に位置づけられる)と②不可譲渡性ルールについて、人格的な物の譲渡性の可否について検討した。具体的には、人格的な物については、譲渡性を肯定することで生じる不都合(例えば、商品化、人格への影響など)と否定するで生じる不都合(例えば、貧しい人は生活ができなくなる)があること、しかし、それらの問題を回避するために、譲渡性を認めつつ、一定期間内であれば、ペナルティを伴うことなしに売主に取消権を認めると折衷的立場(Porat=Sugarmanの「制限不可譲渡ルール」)が近時提案されていること、さらに、このような近時の立場の存在は、利益吐き出しとの関係でも応用の余地があるとの知見を得ることができた(なお、③のルールについては、文化財との関係で、検討した。橋本伸「文化財の譲渡可能性をめぐる理論的考察――近時のアメリカ法学の議論を端緒に」松久三四彦先生古稀記念『民事法制度の構造と解釈』(信山社、2022〔近刊〕)として次年度に公刊予定である)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度において、前年度取り残したHanoch Daganの研究内容を公表し、また当初予定していなかったが、本研究との関係で重要となる制限不可譲渡ルールに関する論文を執筆できた点では「おおむね順調であった」といえるが、当初予定していた利益吐き出しの要件・効果については十分には検討することができなかったことから、本研究全体としてみると、ー-昨年度における新型コロナの影響による遅延の影響が主たる原因であるが――当初より1年分遅れている状況であるため、このように判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上記理由のために、研究期間を1年延長することで本研究の残りを実施することで対応することとしたい。具体的には、以下の通りである。
第1に、利益吐き出しの根拠論の多元化を踏まえた、利益吐き出しの要件・効果論を英米法を素材に検討することである。本研究において、これまでの成果から、英米法おいて多様な場面で用いられる利益吐き出しは、一元的に説明することは難しく、多元的に説明するのが望ましいのではないかと考えるに至った。そこで、それらの根拠論に即した要件・効果のありかたについて検討することで、英米法の利益吐き出しをより立体的に示したい。
第2に、第1の点を踏まえた、若干の日本法への示唆を求めた検討を行うこととしたい。もっとも、本研究が当初挙げたすべての項目(不動産・動産侵害、特許や著作権などの知的財産権侵害、人格権侵害、守秘義務違反、契約違反、信認義務違反など)を対象に検討することは時間的に厳しいことから、知的財産権(特に著作権)侵害と人格権侵害を中心に検討することを現在のところ予定している。もっとも、この点は、進捗により変わる可能性あり、形になるところを中心に行い、成果に結びつけることにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響による出張ができなかったことや予定していた外国図書の刊行および入荷の遅れに加えて、本学の決算事情で本年度の科研費の執行期間が通常より1月短くなったため、使用することができなくなったことによる。次年度早期に図書を購入することで用いることとしたい。
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