本年度は、英米法における利益吐き出しの要件・効果をめぐる議論を中心に検討を行った上で、これまでの利益吐き出しの議論全体からの日本法への示唆を求めた。 まず、要件論について。英米法の議論は、利益吐き出しの要件の問題として、①他の救済が不十分な場合のみ認められる補充的な救済か、②侵害者の主観的認識(故意や悪意)が要求されるか、③侵害行為と侵害者が取得した利益の間に一定の繋がり(因果関係)が必要か、④利益吐き出しが権利保有者側の事情により否定されるかの4点を中心に展開されていること、しかし、従来の判例・学説は、問題となる場面によって理解が異なることやある特定の場面でも理解が一致しない状況にあることが明らかとなった。 次に、効果論は、吐き出すべき「利益」を確定する際に⑤利益を取得する際に侵害者が被った費用として費用の控除が認められるか、⑥利益を得る際に権利保有者の権利等以外の事情が利益の発生に貢献している場合に、侵害者に利益の一部を配分するか、⑦(⑥と類似するが)侵害者の能力・才覚が寄与している場合に、侵害者に手当ての付与を認めるかの3点を中心に検討がなされている。特に⑤は問題となる多くの場面で認められているが(ただし、費用の範囲は異なる)、⑥と⑦の適用場面は異なる(前者は知的財産権侵害の領域を中心に、後者は信認義務違反の領域を中心とする)。⑥⑦の違いとその正当化について、Boosfeldの見解により示唆を得ることができた。 最後に、日本法への示唆という点について。英米法の議論からの一番の示唆は、利益吐き出しを《制裁=抑止》により一元的に捉えなけれられるとするわが国の従来の理解に固執する必要がないという点であった。問題となる場面の多様性を踏まえると、それらの性質を踏まえた根拠づけが模索されることがわが国における利益吐き出しの議論を進展させるために必要であるといえよう。
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