本研究は、会社がどこまで取締役らの争訟費用等を補償すべきかについて適切な考え方を提示することを目的としており、最終年度である本年度において、イギリスにおける会社補償の範囲に関する研究を行い、英米法の比較法的研究の成果に基づき、どの程度の過失であれば、取締役について、会社法430条の2にいう会社補償が妨げられないのかを提示する計画であった。 このもとで、本研究は、取締役が会社補償を受けるための主観的要件として、デラウェア州一般会社法(DGCL)には誠実行動要件があり、2006年イギリス会社法(CA2006)には234(3)(b)(ⅲ)があるが、それを遵守する限り、事後補償に限って言えば、①DGCLのもとでもCA2006のもとでも、会社以外の私人による民事手続における和解やアメリカの司法手続にいう不抗争の答弁をしても、取締役への補償が可能になっていること、②DGCLのもとでは、会社以外の私人による民事手続における判決、命令、有罪判決を受けても、取締役への補償が可能になっていること、③CA2006のもとでは、取締役が会社以外の私人に対して、または、規制機関から責任を有するとされても、取締役への補償が可能になっていること等を明らかにし、日本では、費用補償が会社補償の中心をなすことが予想されるので、費用補償の要件となる図利加害目的については、和解を含め、責任を有すると明示されないまま手続が終了したり、自己の行為が罪を犯すと認めないまま手続が終了したりする場合に補償を認めるべきかどうかの議論を詰め、それを踏まえて解していくことが有益であると考えるに至った。 本研究は、DGCLやCA2006が予定する会社補償の範囲を提示できた点において重要であり、会社法430条の2にいう図利加害目的の解釈論の活発化に寄与できた点において意義がある。
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