研究課題/領域番号 |
19K13569
|
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
齋藤 航 中央大学, 法務研究科, 助教 (00803975)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 過失相殺 / 契約違反 / 損害賠償 / avoidable consequence / comparative negligence / mitigation |
研究実績の概要 |
2019年度に行ったのは、日本法における過失相殺の課題の指摘と、アメリカ法における過失相殺類似の法理の検討である。 まず日本法について、契約違反の過失相殺を規定する民法418条の立法趣旨にまで遡り判例・学説等を検討した。その結果、過失相殺の根拠(賠償額減額のための正当化理由)を専ら契約当事者の合意に求める近年の見解では説明困難な判例があることが確認され、異なる観点からの根拠づけが必要であるという点を課題として指摘した。 続いて、この問題意識に基づき、アメリカ法における損害賠償額の減額法理として、結果回避可能性(avoidable consequence)と比較過失(comparative negligence)という2つの法理に、日本の過失相殺との類似性があることに着目し、その根拠につき過失相殺との比較検討を行った。 その結果、結果回避可能性と比較過失とは、ともに日本の過失相殺と類似した事案で損害賠償額を減額しているが、その際には単に当事者の合意のみに依拠するのではなく、契約違反を受けた当事者も損害を最小化することが社会経済的観点から望ましいという規範(経済的効率性)に基づき、これに反した場合に損害を減額していることを明らかにした。他方で、もし当事者が損害の分担について契約で合意をしている場合には、経済的効率性の要請は後退し、当事者の合意が優先する(デフォルト・ルールとしての性質)という点も指摘した。 これを受けて、日本法においても、この経済的効率性に基づくデフォルト・ルール(任意規定)という考え方が応用可能であると考え、日本法における判例を再検討した。 そして結論として、契約違反における過失相殺には、当事者に明確な合意が存在しない場合に経済的効率性を根拠とする「任意規定としての過失相殺」という法的性質があり、この考え方によって上記課題を解決することが可能であると主張した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の主目的である、アメリカ法における過失相殺類似の法理の根拠と適用事案を明らかにするという課題に対し、その根拠は経済的効率性に基づくデフォルト・ルールであるという、一定の回答を得ることができた。 今後は、両法理の適用事案をより深く分析する。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方針は、以下の3つである。 第一に、結果回避可能性と比較過失について、両法理の適用事案の違いを明らかにすることを通じ、日本法における賠償額の減額方法について検討する。 第二に、アメリカにおける不法行為の損害賠償減額法理も、日本法の過失相殺と類似している点がある。そこで、契約違反に加え不法行為の場合も分析することを通じて、日米の損害額減額法理について、より多角的な観点から検討する。 第三に、国際取引法、特にウィーン国際物品売買条約における損害軽減義務の考え方が、アメリカ法の考え方を採用したものであり、かつ日本においても法源となっているという特徴があることに着目し、これを検討することで日本法における損害軽減義務と過失相殺の関係を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度はインターネットデータベースを通じた研究が多かったため、書籍の購入が想定より少なかった。 次年度は、書籍の購入、および海外出張を予定しており、これらに使用する予定である。
|