本研究の成果は、「債務不履行(契約違反)に基づく損害賠償における民法418条の過失相殺の根拠として、『契約によるリスク引き受け』を第一義的な根拠としつつ、アメリカ法の検討を踏まえて『経済的効率性』という考え方も根拠として存在することを指摘し、過失相殺について理論的な基礎付けを与えた」という点にある。 本研究では、まず従来の過失相殺においては、主に不法行為の場合について着目され、契約違反の場合は必ずしも着目されていなかったが、近年では契約責任としての「契約の拘束力」を踏まえて過失相殺についても契約を根拠とする見解があると分析をした。 そのうえで、実際の裁判例を検討し、契約を根拠とするのみでは説明困難な場合が少なくないことを指摘し、これをいかにして説明するかという問題を提起した。そしてこの問題を解決するため、アメリカ契約法および不法行為法における損害賠償額の減額法理として、損害軽減義務および比較過失について着目し、その根拠を検討した。 その結果、両者のいずれについても、「当事者双方には、状況に応じて損害を最小化することが経済的な効率性の実現のために求められる」という社会的な規範が存在し、それに反したことが賠償額減額の根拠となっていることを指摘した。そして、この経済的効率性の考え方は日本においてもすでに過失相殺の適用においてすでに用いられていることを示した。 結論として、過失相殺においてはまず契約に基づいて当事者の行為を判断して過失相殺をする「私的自治としての過失相殺」と、契約で想定されていない場面において経済的効率性に基づき当事者の行為を判断して過失相殺をする「任意規定としての過失相殺」の2つがあり、これが民法418条の過失相殺の法的性質であるとした。
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